とても楽しく、テンポのいいコメディ~METライブビューイング『ファルスタッフ』

 METライブビューイング『ファルスタッフ』を見てきた。ロバート・カーセン演出、ダニエレ・ルスティオーニ指揮で今年の4月1日に上演されたプロダクションである。

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 舞台は1950年代頃に設定されている。全体的に食べ物がたくさん出てくるプロダクションで、しょっぱなからファルスタッフ(ミヒャエル・フォレ)が食べ散らかした夕食のテーブルがたくさんある宿の部屋が出てくる。ファルスタッフが泊まっている宿はお堅い男性が多そうでファルスタッフはちょっと異質である。一方、女性陣がファルスタッフの恋文を読む豪華なティーハウスは対照的にいろいろな人がいて、可愛いお菓子類が売りらしく、どちらかというとご婦人方が楽しむ場所という感じだ。フェントン(ボグダン・ボルコフ)はどうもこのティーハウスで働いているらしい。ファルスタッフが洗濯籠に突っ込まれるキッチンは広々としたオシャレな台所で、ナンネッタ(ヘラ・ヘサン・パク)はフェントンとの恋を邪魔されそうになってふてくされて冷凍庫からでっかいアイスを出してきてやけ食いしようとする。男女ともにみんな食欲旺盛で、それぞれ人生を楽しんでいる感じのプロダクションである。

 

 アリーチェ(アイリーン・ペレス)は50年代風の黄色いドレスを着ており、一見したところ完璧な主婦…だが、このプロダクションではけっこう悪巧みも得意なひとくせある女性だ。クイックリー夫人(マリー=ニコル・ルミュー)はたぶんフォード家やペイジ家より少し下の階級だと思うのだが、アリーチェとは頭の回転の速さでうまがあっているようで、アリーチェのメッセージをファルスタッフに伝えに行く場面ではお色気を全開にして誘惑的にファルスタッフに歌いかけ、宿の男たちをたじろがせている。全体的にとてもテンポがよく、何人もの人で素早くタイミングがきっちりあった掛け合いをするスピード感がこのプロダクションの醍醐味だ。幕間のインタビューでは歌手たちがみんなこのプロダクションを時計にたとえていたのだが、その意味がよくわかる。