とても楽しいプロダクション~『ファルスタッフ』

 新国立劇場で『ファルスタッフ』を見てきた。指揮がコッラード・ロヴァーリス、演演出がジョナサン・ミラーである。

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 白黒の床に近世っぽいセットで、奥行きを強調する美術である。衣装もわりと近世風だ。ただ、かなりきちんと綺麗に作られているウィンザーの町の家屋のセットに比べると、最後の場面の森のセットはやや迫力がない…というか、ハーンの樫の木が途中で切られていて葉っぱがないセットなので、鬱蒼とした森でファルスタッフが怯えて…というような雰囲気があまり醸し出せていないと思った。

 全体的にはとても楽しいプロダクションで、笑うところもたくさんある。立ち聞きなどがたくさん使われている演出で、アリーチェ(ロベルタ・マンテーニャ)やクィックリー夫人(マリアンナ・ピッツォラート)がファルスタッフと話しているところを他の人が聞いて、ちょっと面白おかしいリアクションをする…というようなところがユーモラスだ。さんざんな目にあいつつ、最後はみんなに混じって歌って楽しむファルスタッフ(ニコラ・アライモ)はけっこうポジティブな感じにキャラクターに作られている。とくに終盤では若い恋人たちが親を出し抜いて結婚できるようになったことについてかなり喜んでいるようで、いろいろ困ったところはあるが他人が幸せそうにしているのをねたんだりはしない、愉快なおじちゃまである。ただ、初日だったからか、最後にファルスタッフがたぶん歌をちょっと忘れて、プロンプターが客席から見えるくらい楽譜を前に出していた。