もとの映画とは違う味わいも~『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』

 『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』を見てきた。言わずと知れたバズ・ラーマン監督の有名な映画の舞台版である。写真が撮れる時間帯があるのだが、セットはかなり豪華で(ちゃんと象もいる!)こんな感じである。

 基本的なお話はだいたい同じで、ムーラン・ルージュの花形ショーガールであるサティーン(平原綾香)と貧乏詩人クリスチャン(井上芳雄)の超ドラマチックな恋を描く作品…なのだが、細かいところでだいぶ変わっているところがある。一番大きい違いは歌がずいぶん増えているところで、映画が作られた2001年以降のヒット曲も盛り込まれており、さらに著作権が発生するギリギリの長さくらいしか使っていない曲もあって、あまりの豪華さにめまい(耳鳴り?)がするほどである。この舞台はチケット代が高いということで不評だったのだが、これだけ著作権料を払っていたら、ロングランシステムのない日本ではたぶんチケット代を上げないと回収できないんだろうと思う。

 もうひとつ違いとして大きいのは、映画ではムーラン・ルージュでクリスチャンとサティーンが上演するのはインドが舞台の異国情緒系のショーなのだが、舞台では同時代のパリが舞台のなんだかえらくリアリズム的なショーになっているということだ。もとの映画の大変人工的なスタイルからするとエキゾチック志向のショーをやるのが自然という気もするのだが、今それをやるとちょっと古臭い気はするし、たしかに前衛的な芸術家集団ならやたらリアルな話をやりたがる気もするので、これは悪くない変更だと思う。サティーンは本格的な演技をやりたがっているようなので、その志向とも一致する。

 また、小さな変更なのだがけっこう効いているのが、恋敵でパトロンの公爵(伊礼彼方)が映画よりもだいぶハンサムで、かつだいぶ狡猾に性格が悪いということである。映画の公爵はあんまり垢抜けないし、途中までサティーンやジドラーに手玉にとられ気味のところもあったのと思うのだが、舞台版ではわりと本格的に悪い色男である(そのせいでジドラーの「ライク・ア・ヴァージン」がカットされたのは寂しいが)。たぶん伊礼彼方のキャラ作りのせいも大きいと思うのだが、いきなりサティーンを前にローリング・ストーンズのメドレーを歌ったりしてえらいセクシーだし、貴族特有の他人は自分に従って当然だという押しの強さがある。一方でめちゃくちゃ支配欲が強くて性格が悪く、序盤では田舎から出てきた小僧さんみたいに世間知らずな井上クリスチャンがこいつに対抗できるのかと心配になるほどである。役者の年齢から言うと公爵のほうが若くて井上のほうが年上なのだが、いつも年齢不詳気味の井上芳雄が今回はさらに若作りで出てきており、サティーンに初めて会うところなどまるで高校出たてで大学デビューした人みたいな若々しさなのだが、終盤はだんだん大人っぽくなっていってちょっと安心した。

 これもキャストに起因するものなのだが、平原サティーンがとても優しいショーガールなのも特徴である。ムーラン・ルージュの運営についても非常に気にかけているようだし、他のショーガールたちにも親切で、自分のショーのクオリティについても強いこだわりがあって芸術家気質だ。二番手スターのニニ(藤森蓮華)とサティーンがライバルながらもちゃんと助け合うところはシスター同士の連帯をきちんと描いている。この丁寧さはもとの映画より良いのではないかと思う。