怒りには理由がある~『マイ・エレメント』(ネタバレあり)

 ピクサーの新作『マイ・エレメント』を見てきた。

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 登場人物は四大元素(火、空気、水、土)である。火であるバーニー(ロニー・デル・カルメン)とシンダー(シーラ・オンミ)のルーメン夫妻はファイアランドから四大元素が暮らすエレメント・シティに移民してきて店を開く。バーニーは娘のエンバー(リア・ルイス)に立派な店を残せるよう日々努力していたが、できるだけ他のエレメントとは関わらないようにしていた。ところがひょんなことからエンバーは水であるウェイド(ママドゥ・アティエ)に会い、恋に落ちる。

 四大元素の話になっており、綺麗でファンタジーっぽい絵柄だが、内容は明らかに移民の経験と異人種間恋愛がテーマのロマンティックコメディである。どっちかというと『ジャングル・フィーバー』とか『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』に近いようなジャンルの作品だし、対象年齢層も小さい子どもよりはティーン以上だと思う(これまで視野に無かったキャリアを選択しようとする際の心理的な困難についての話とかも入っており、このあたりは小さい子だとあまり身近に感じられないかもっていう気がする)。主人公である火のルーメン一家は韓国系の移民一家の出身であるピーター・ソーン監督の体験に基づいて描かれているらしいのだが、けっこう抽象化されており、わりとどこの地域の移民を連想してもおかしくないような描かれ方になっている。エレメント・シティの中心部ではわりといろんな元素がいるのだが、火はエンバー以外ほとんど出てきておらず、どうもエレメント・シティでも火はかなり少数派で差別もあいり、ファイアタウンから出ないで暮らしているらしいところがちょっとした描写からわかったりして、芸が細かい。

 この作品で面白いのは、エンバーが癇癪の発作みたいなものを起こすところの描き方である。エンバーは怒りをコントロールするのが苦手で、お店で接客がうまくいかないと紫色の焔を燃え上がらせてしまうことがあり、店を継ぐにはこのクセをなんとかしないといけないと思ってプレッシャーを感じていた。ところがエンバーはウェイドと会って話すうちにどうもこれには今まで考えていなかった理由があるのではないかと思い始める。父の期待に添うべく頑張っていたエンバーだが、実はあまり店の経営には興味が無く、ガラス工芸とかデザインみたいなアートっぽいものが好きで、どうも焔の爆発はその押さえつけていた感情のせいではないかということがだんだんわかってくる。若い(とくに少数民族の)女性がイライラしたり怒っていたりすると、感情的でダメだみたいなことを言われることもあると思うのだが、この映画ではそういうイラつきとか怒りには何か理由があるのだからそれにきちんと周りの人も含めて向き合わないといけないという描き方になっているのが良いと思った。本作は若い女性のメンタルヘルスについての映画でもある。