ウォータールーの落日~『ブラックベリー』(配信)

 カナダ映画ブラックベリー』を配信で見た。iPhoneの前は携帯電話大手として有名だったブラックベリー社の興亡を描いた作品である。

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 1996年、カナダのウォータールーでマイク(ジェイ・バルシェル)とダグラス(グレン・ハワートン)が立ち上げたにあるリサーチ・イン・モーション社は、開発能力はあるのだがオタクの集まりで全く製品を売り込めずに資金繰りが悪化していた。企業家のジム(マット・ジョンソン、監督本人)は2人の事業に目を付け、強引にリサーチ・イン・モーション社の共同CEOとなり、売り込み工作の末ブラックベリーが世に出る。ブラックベリーは大成功するが、マイクやダグラスの作った自由な開発環境とビジネス優先のジムの間ですれ違いが起き、どんどんブラックベリー社は迷走していく。

 『ソーシャル・ネットワーク』とか『スティーブ・ジョブズ』みたいなテク企業ものなのだが(後者とは会社の大きな節目3箇所くらいに焦点をあてている構成も似ている)、この2作に比べるとだいぶコミカルである。似たような作品だと今年『テトリス』があったが、これよりは相当にシニカルで、いかにもカナダの映画というような冷めたユーモアのセンスが感じられる。手持ちカメラを使った低予算っぽい撮影はちょっと気になるのだが、非常に笑える。

 マイクとダグラスはいかにもテク系ギーグで型にはまらないくだけた雰囲気の開発者であり、トラブルが起きると士気を上げるために職場でフィルムナイトを開催するのだが、そこで見る映画は『インディ・ジョーンズ/レイダース 失われたアーク《聖櫃》』とかだし、序盤からスター・ウォーズの話をしていたり、まあとにかくオタクである。そんなマイクとダグラスが、技術のこともわからないし、スター・ウォーズすらロクに見たことのないジムと組んだことにより、テク系オタク世界と外の世界が触れあって最初は大成功する…もののやがて大失敗が訪れる。面白いのはジムはいわゆるオタクっぽいオタクではないのだが熱烈なスポーツファンで、失敗の一因はそれだということだ。ふたつの全く違うオタク文化が触れあったことによりいろいろとんでもないことが起こる。

 音楽の使い方も気が利いており、序盤でテーマ曲みたいにエラスティカの「コネクション」が流れるところをはじめとして、時代の雰囲気にも作品のコンテクストにもあった曲がいろいろ使われている。「コネクション」は接続の歌なので携帯電話会社の開発にぴったりだし、さらにジムはコネを使っていろいろやろうとするので、序盤で流れるにはふさわしい。そして最後に1曲、全く時代にあわないキンクスの「ウォータールー・サンセット」が流れるのだが、これはカナダのウォータールーのご当地企業だったブラックベリーが大失敗して挫折する様子を「ウォータールーの落日」という歌詞に引っかけていて、ここだけでも笑ってしまう。