非常にちゃんとした諷刺コメディ~『アメリカン・フィクション』

 『アメリカン・フィクション』を配信で見た。

 主人公のセロニアス・「モンク」・エリソン(ジェフリー・ライト)は大学で教える作家だが、最近小説を出せていなかった。アッパーミドルクラスのインテリであるモンクは書いた小説が「黒人」らしくなくて売れないということで、やけくそ気味のモンクは黒人文学ステレオタイプてんこもりの小説を書き、犯罪者で逃亡中の作者が書いたというふれこみで売り出しす。ところがこれがやたらにウケて映画化権もすぐに売れることになり、だんだん事態が手に負えないことに…

 アメリカの文学界と映画界を痛烈に諷刺した作品である。マイノリティは無徴のマジョリティと同じようなことをやっても注目されず、マイノリティらしさを過剰に求められるというありがちな状況を皮肉っているのだが、一方でモンクの家庭の様子などはけっこうリアルに描かれており、母はアルツハイマーになるし、ゲイの弟はドラッグをやってるし、このあたりの描き方はあまり人種に関係なくアメリカのアッパーミドルクラスの家庭でこういうところはきっとあるのだろう…という感じで、ほとんど戯画化らしいものがない。とくに面白いと思ったのは家政婦のロレイン(マイラ・ルクレシア・テイラー)の結婚をめぐるくだりで、ロレインはエリソン一家の家族みたいな扱いで、モンクに結婚式で父親がわりに一緒に通路を歩いてくれるよう頼むのだが、これはもしエリソン一家が白人だったらすごくイヤな感じの場面になるだろうな…と思ったりもした。たぶんそういうところまで考えて作っている映画なのだろうと思う。

 ただ、非常によく出来ているせいで、ジョーダン・ピールの映画とか、『ホワイト・ボイス』や『ゼイ・クローン・タイローン/俺たちクローン』みたいなぶっ飛んだ感じの面白さは無い。諷刺コメディとはいえ、事情にちゃんとした、よくまとまった映画である。そこがアカデミー賞ウケした理由のひとつではあるんだろうな…と重った。私はどちらかというと飛躍のある映画のほうが好みではある。