自伝的作品だからだろうが、とても中途半端~『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』(試写、ネタバレ注意)

試写 『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』を試写で見てきた。『アド・アストラ』の監督であるジェームズ・グレイの自伝的作品である。

 舞台は1980年代のニューヨークである。ユダヤ系一家の息子であるポール・グラフ(バンクス・レペタ)は絵を描くのが好きな子どもであまり学校に馴染めない。唯一、親しくしている黒人のジョニー(ジェイリン・ウェッブ)は学校ではトラブルメーカー扱いである。ポールはジョニーに誘われて学校のトイレでよく事情も知らずにマリファナをすい、学校にいられなくなって兄が通っている私立学校に転校するが…

 映画としてはちゃんとした出来の作品なのだが、おそらく自伝的作品だということもあって人種の扱い方は相当中途半端である。ポールはユダヤ系で差別の対象とは言え白人でミドルクラスなので学校を変わることで不良少年の烙印を押されることから逃れられるが、ジョニーは貧しい黒人なのでできない…という絶望的な状況をそのまま提示するだけで、それ以上の切り込みが無い。白人の主人公の罪悪感をただただ提示しただけでジョニーにもあまり主体性が無い。ポールが通っている私立学校に、パトロンであるフレッド・トランプ(ドナルドの父)が来てスピーチする場面があるのだが、こういう構造のせいで黒人差別が温存され、ドナルド・トランプが大統領になったんだな…ということはなんとなくわかるものの、正直なところそれ以上のツッコミなしでこういう話を見てもなぁ…と思ってしまう。この種の話としては先日見た『フェイブルマンズ』のほうがはるかに映画としては面白かったと思う。