恋人の名前をタトゥーとかにしてはいけない~『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(ネタバレあり)

ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』を見てきた。

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 公開初日なのでぼかし気味であらすじを書くが、シリーズ第3作のメインプロットはなんと不正選挙である。魔法界にもドナルド・トランプのような政治家がいる…ということで、グリンデルバルド(マッツ・ミケルセン)が選挙に詐欺的な手段で介入して魔法使いの国連みたいな組織の長になろうとする。これを阻止すべくニュート(エディ・レッドメイン)やダンブルドアジュード・ロウ)たちのチームが戦うというものだ。

 魔法ワールドフランチャイズの生みの親であるJ・K・ローリングはトランス差別発言でエディ・レッドメインを含めた映画のメインキャスト陣から批判され、さらにジョニー・デップが妻のアンバー・ハードに対するDV疑惑と泥沼の離婚裁判でグリンデルバルド役を降板、次はエズラ・ミラー精神不安定になって度重なる治安紊乱で警察沙汰続き…ということで、正直ファンタスティック・ビーストはこのまま作り続けられるのかというような状況である。話の内容とは違うところで映画館に足を向けたくなくなる要素が多すぎるし、またエズラ・ミラーは役柄上、グリンデルバルドと違って役者を変えるわけにはいかないと思うのだが、正直撮影に出てこられる健康状態なのかわからないあたりが心配だ。また、あと2作あるという話なのだが、けっこうこの作品で話じたいは終わりに向かっている感じなので、あと1作で充分ではという気がする(次の作品で新展開があったりするとかえって混乱する気がする)。とにかくフランチャイズの先行きについては不安ばかりの作品である。

 作品の内容としては、ひどい言い方だが「これはジョニー・デップにやらせて楽屋落ちで面白いみたいな予定にする作品だったのでは?」というようなあらすじである。ジョニー・デップは恋人だったウィノナ・ライダーアンバー・ハードの名前に因んだタトゥーをして、別れるたびに(たぶん後悔して)タトゥーを変えるということをしているのだが、この作品ではグリンデルバルドとダンブルドアの間でその魔法バージョンみたいなことが起こる。いくら恋人のことが好きだからって「○○命」みたいなタトゥーを入れると後で変えられなくて困るからやめたほうがいいのでは…みたいな話をマッツ・ミケルセンジュード・ロウを使って2時間以上、派手な魔法のドンパチつきでやるわけである。グリンデルバルドは役者が変わったが全く違和感がなく、むしろ選挙介入みたいなやり方で悪いことをしようとするのはミケルセンのほうが似合っている気がする。ダンブルドアが若い頃にグリンデルバルドに恋していたことも台詞ではっきり説明されている。この2人が出てくる場面はどこも緊張感が漂っていて、バトルの場面などもかなり妖艶である。ダンブルドアはけっこう動きやすそうな格好をしているのにグリンデルバルドはおしゃれな模様のネクタイをしていたりするあたり、それぞれのキャラクターがあらわれていて芸が細かい。

 ただ、脚本とか編集にはけっこういろいろ疑問もある。グリンデルバルドとダンブルドアに注目しているせいでユスフ・カーマ(ウィリアム・ナディラム)やバンティ(ヴィクトリア・イェーツ)などがやや手薄になっていると思うし、ティナ(キャサリン・ウォーターストン)に至ってはほんのちょっとしか出てこない。クイニー(アリソン・スドル)の改心にももうちょっと場面を割いたほうがいいと思う。ヴォーゲル(オリヴァー・マスッチ)は無能すぎるし、選挙を管理している人たちが全員、あの魔法が見破れないくらい経験不足なのかと思うと、この連盟にはたいして力がないのでは…とツッコミたくなってしまう。ニュートがテセウス(カラム・ターナー)を救出するところはヴィジュアル的にはすごく面白いのだが、話の展開には全然貢献していない。全体的にけっこうごちゃごちゃしており、ヴィジュアル的に面白い箇所と話の重要ポイントが有機的につながっていないような印象を受けるところがある。

 あと、この映画にはかなり大きな結婚式の場面があるのだが、魔法使いと人間の結婚というのはどういうやり方でやるんだろうと思った。ジェイコブはユダヤ系だと思うのでユダヤ教の結婚式をしたいのではという気もするのだが、ユダヤ教のやり方で魔女と結婚できるとは思えない。魔法使い同士だと何か相互に魔法を使った契約をするのかもしれないが、ジェイコブは人間である。そのへんは本作では描かれておらず、どういう設定なんだろうと思った。