香りと記憶に関するファンタジースリラー~『ファイブ・デビルズ』(試写、ネタバレあり)

 レア・ミシウス監督 『ファイブ・デビルズ』を見た。

www.youtube.com

 フランスの山村に住む少女ヴィッキー(サリー・ドラメ)は強い嗅覚を有しており、さらに身の回りの人の香りを自分で調香することができるという才能を持っていた。ヴィッキーは母のジョアンヌ(アデル・エグザルコプロス)が大好きだったが、両親はあまりうまくいっておらず、さらにどうもわけありらしい父の妹ジュリア(スワラ・エマティ)がやってきて家の雰囲気が落ち着かなくなる。ヴィッキーはジュリアの香りを作るが、ジュリアの香りを嗅ぐと気を失って生まれる前の過去が見えるようになる。

 ちょっと詰め込み過ぎの感もあるが、スリリングなファンタジーで、クィア映画でもある。ヴィッキーは母親が白人、父親が黒人で、人種差別のせいで学校にはあまりうまくなじめず、いじめられている。そんな中で孤独な少女であるヴィッキーが自分の超能力を発達させ、だんだん過去の母親とジュリアのロマンスや、それに関連する衝撃的な出来事などが明らかになっていく。孤独な子どもの超能力が発現してしまうという点ではちょっと『キャリー』とか『クロニクル』とかを思わせるところもあるが、ヴィッキーの関心が周りに復讐するとかではなく、家族や村の過去を探るという内的な方向に向いているのが面白い。ヴィッキーの透徹した目を通して見ると、登場人物の大人たちは異性愛にしろ同性愛にしろ、本人たちは大真面目に恋愛しているのだろうがはたから見ると自分勝手なところも大いし、ナチュラルに差別発言をするような人々もけっこういる。けっこうぶっ飛んだ超能力の話なのだが、そのへんの人間関係はわりとリアル志向に描かれている。