90年代風味の気の利いたジュークボックスミュージカル~『クルーエル・インテンションズ』

 『クルーエル・インテンションズ』(Cruel Intentions: The ’90s Musical)をジ・アザー・パレス劇場で見てきた。言わずと知れた1999年の映画『クルーエル・インテンションズ』のミュージカル版である(なお、おおもとの原作はラクロ『危険な関係』)。音楽は90年代のポップスをふんだんに使用しており、ジュークボックスミュージカルである。

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 ニューヨークの名門高校を舞台に、学校の人気者であるキャサリン(ヴェリティ・トンプソン)と、義理の兄弟で女癖の悪さで評判のセバスチャン(ダニエル・ブラヴォ)の恋と策略を描くものである。セバスチャンとキャサリンは、セバスチャンが学園長の娘で真面目なアネット(アビー・バデン)を落とせるかどうか賭けをする。セバスチャンはアネットを口説くが、だんだんアネットの心惹かれるようになり…

 全体的に非常に気が利いていて笑うところもたくさんある、楽しい作品である。開演前に、もとの映画でヒロインを演じたサラ・ミシェル・ゲラーの声で「キャサリンです。負け犬のみなさん、携帯は切ってね。バカな観光客の皆さん、魔法のやつは別のパレス劇場だから」みたいな放送が流れるなど(パレス劇場で『ハリー・ポッターと呪いの子』をやっている)、もとの映画のファンの心をくすぐる仕掛けがいろいろある。セバスチャンが初っ端からセラピストの娘のヌード写真をネットに流出させるなど、ネットいじめが大変なことになっている今から考えるととんでもなくヤバい人…なのだが、それも含めて非常に90年代っぽい作品である。ジュークボックスミュージカルなのだが、90年代のヒット曲を当時のコンテクストからわざとズラして「あれ、この曲こんなシチュエーションにフィットするんだ…」みたいな感じで使っていて、音楽の使い方だけで90年代に育った人には大いに笑える。最後はセバスチャンの日記の一部をコピーしたチラシが上から降ってきて(お客さんはもらって帰れる)、SNS以前の時代の情報バラマキはこうだったもんなぁ…という気分になる。一方、ブレイン(ジョシュ・バーネット)とグレッグ(バーニー・ウィルキンソン)のゲイカップルについては90年代版よりもう少し役が大きくなり、いろいろトラブルはあるがまあ可愛いカップル(そんなボーイフレンドを脅迫のネタにするブレインもたいがいだが…)として描かれているのはたぶん時代背景の変化が関係しているだろうと思う。