アデルファイ劇場でミュージカル版『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を見てきた。映画第一作目の舞台化である。だいたいは新曲だが、ちゃんとヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニューズの曲も使われている。
話はほぼもとの映画に忠実である。1955年に飛ばされたマーティ(ベン・ジョイス)がドク(コリー・イングリッシュ)の助けで1985年に戻ろうとする一方、自分の両親をくっつけようと頑張る話である。ただ、おそらく特殊効果上の制限と現代にあわせるということで、細かいところが微妙に異なっている。
私が気付いたところでは、大きな変更が3つくらいある(たぶんもっと年季の入ったファンだといろいろ変更に気付くと思うのだが)。ひとつめとしては、ドクがリビアのテロリストに襲われるところはカットで、ドクはなんと放射線防護に失敗してプルトニウム暴露のせいでぶっ倒れてしまう。これはたぶんリビアのテロリストのステレオタイプな描写が良くないというのと、舞台の奥行きとかの関係で一度に車を2台以上出せないからだろうと思う(これについては他のいろんな人も指摘しているのだが、この舞台では車はデロリアン以外出てこなくて、たぶんそれは特殊効果上の制限のせいだと思われる)。この展開だとドクがなんか間抜けに見えるのであんまり良くないかもしれない。ふたつめはスケートボードチェイスが大幅カットされていることで、これは舞台ででやると危険だからだと思うのでしょうがないのだが、映画の見せ場になっているところがなくなったのはちょっと残念だ。三つめの大きな変更はチャック・ベリーに電話をかけるくだりがなくなったことで、これはもとの映画では白人が黒人音楽を簒奪するみたいな展開になってしまっていて感じが悪いので、よい方向性の変更だと思う。
小さい変更もたくさんある。犬のアインシュタインは出てこないが、これは残念ではあるものの、これだけ装置が多い舞台で犬を出すのは無理だからだろうと思う。さらに市長のゴールディ(ジェイ・ペリー)については歌と踊りの大きな見せ場があって役が大きくなっていると思うのだが、ここは1950年代のヒル・ヴァリーの様子を生き生きダンスや歌で見せており、客席が大いに盛り上がったのでよい変更だと思う(ゴールディ役の歌もすごく上手だった)。
全体的にとにかく特殊効果がすごい作品で、それだけでもお金を払う価値はある。大変大がかりな装置と美術で(舞台の回りの壁にも効果を高めるためのデザインが施してある)、プロジェクションと可動式の装置を使ってデロリアンがタイムトラベルするところを見せており、タイムトラベルの場面では舞台に『2001年宇宙の旅』のスターゲイトみたいなものが出現する。まるで客席ごと時空旅行にツッコんでいくみたいな臨場感である。最後はデロリアンが空中に飛んで回転までする。これを安全に運用しているテクニカルスタッフには拍手しかない。
ウェストエンドではまああることだが、劇場ごと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』仕様にしてあり、バーなども手が込んでいる。