とても面白いが、ちょっと陳腐に見えるところも~『ギア-GEAR- East Version』(ネタバレ注意)

 『ギア-GEAR- East Version』を見てきた。 

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 ほぼ全く台詞の無い舞台で、舞台はうち捨てられたおもちゃ工場である。おもちゃを作っていた4人のロボロイド(アンドロイドのようなロボットのような機械人間)と、工場で昔作られていた女の子のドールが出会ったことで、工場がてんやわんやの大騒動になる様子を描く。ロボロイドは赤(マイム担当)、黄色(ブレイクダンス担当)、青(マジック)、緑(ジャグリング)の4人で、それぞれドールと接触することでそれぞれの才能を開花させ、妙技を披露するようになる。

 

 全体としては、台詞がなく、音楽にのせて5人のパフォーマーが動いてストーリーを作るものなので、芝居というよりはマイケル・ジャクソンとかマドンナとかの長尺のミュージックビデオ、あるいはサイレント映画を見てるみたいな感じだった。客いじりもけっこうあり、演芸らしいところもある(私は最前列だったのでマジックのお手伝いをした)。ロボットが人間らしくなっていくとかいうのはそんなに斬新な話というわけではないのだが、プロジェクションなど特殊効果も豊富だし、わかりやすく飽きない作りになっている。

 

 全体的には面白いし、子どもが初めに見る舞台としてはとても適しているかと思うのだが、ちょっと陳腐かなーと思うところもあった。とくに女の子であるドールの設定が少々古くさい…というか、途中でドールの白いワンピースを4人のロボロイド(男性)たちがスプレーペイントでいじくってビキニにしたりする場面は「いやいやまたコレかよ…」みたいな気分になったし、ネタバレになるので詳しくは言えないが、オチもちょっとドールが神秘化されすぎてる気がする。

 

 なお、舞台は上演前と上演後に撮影可能である。上が上演前、下が上演後。

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メチャクチャな世界~METライブビューイング『コジ・ファン・トゥッテ』

 METライブビューイングで『コジ・ファン・トゥッテ』を見てきた。

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 この演目は一度だけ舞台で見たことがあってけっこう気に入ったのだが、今回見たこちらは以前の新国立とはかなり違った演出だ。この話は筋立てなずいぶんとしっちゃかめっちゃかなのだが、この演出では完全にメチャクチャな夢うつつの世界みたいなところで展開する。舞台は1950年代のコニーアイランドだ。原作ではフェルランド(ベン・ブリス)とグリエルモ(アダム・プラヘトカ)がアルバニア人に変装してフィオルディリージとドラベッラを口説くのだが、アルバニアうんぬんはなくなって、軍人だったこの2人がいかにも50年代のイキった色男ふうのファッションに変装して出てくるということになっている。遊園地のウキウキしたキッチュな雰囲気の中、妙技を披露するサーカスや大道芸のプロに囲まれ、くるくる回る回転木馬ティーカップのように主人公の4人が恋人を交換する。誰が誰なのかももうあんまりよくわからないし、遊園地で起こったことがしっちゃかめっちゃかすぎて、最後はもう全部忘れて結婚するしかない。白鳥ボートで愛を囁き、気球に乗って恋の悩みを独白し、流れにのって楽しむしかない。

 

 ちょっと視覚でしっちゃかめっちゃかさを表現するところに力を入れすぎているように思えたところもあったが、全体的には面白かった。この演出では、明るく愉快な性格のドラベッラ(セレーナ・マルフィ)はけっこう最初から浮気に傾いており、とくにボアを使いながらショーガールみたいに「恋は盗人」を歌うところなんかはとても楽しいし、セクシーだ。一方でフィオルディリージ(アマンダ・マジェスキー)は大変まじめな性格で、思い詰めた様子で気球に乗って上下しながら恋心の揺れを歌うところはけっこうシリアスだ。

 

 また、二度目に見てよくわかったのは、この作品はひとりで歌うアリアが少なく、ほとんどの曲が掛け合いとか会話みたいになっているので、どちらかというとストレートプレイを歌にのせてるみたいで、作りが特殊だということだ。私は実は『ドン・ジョヴァンニ』とか『魔笛』よりも『コジ・ファン・トゥッテ』のほうが好きな気がしているのだが、これは『コジ・ファン・トゥッテ』のほうが、私がふだん見慣れているストレートプレイに近いからかもしれない。

 

 

 

 

年を取ってもキラキラのクイーンたち~『ディヴァイン・ディーバ』

 『ディヴァイン・ディーバ』を見てきた。

 

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 ブラジルのリオにあるヒバル劇場を舞台に、デビュー50周年イベントをすることになったドラァグクイーンたちを撮ったドキュメンタリー映画である。監督のレアンドラ・レアルは劇場創設者の孫だということだ。

 

 ドラァグクイーンたちはもう70歳くらいでかなりおばあさん、おじいさんと言っていいような感じなのだが、みんなゴージャスでキラキラでパワフルだ。背景や芸への取り組み方もそれぞれで、いつもドレスを着ていてトランスジェンダー女性と言ったほうがよいようなディーヴァがほとんどだが、普段は男性の格好をしているマルケザのようなパフォーマーもいる。

 

 60年代にブラジルでショーを始めた時の抑圧や逮捕、差別、人間関係の問題、年をとってショーが体力的につらくなってきていることなど、シリアスな話もたくさん出てはくるのだが、全体的にはけっこう明るいトーンだ。というのも、このディーヴァたちはかなりパフォーマーとして成功した人たちで、私生活もわりあい幸せな人が多い。ホジェリアは開けたお母さんに育てられた人で、ドラァグクイーンになった時もあまり家族が驚かなかったらしいし、ジャネは愛する夫のオタヴィオと40年以上一緒に暮らしていて、老夫婦なのにまるで新婚みたいだ。カミレにはすっごく年下のハンサムな恋人がおり、最初は周りの人たちに良からぬ目的でスターに近付いてくる困った人なのではないかと疑われていたらしいのだが、このカレは実のところ、ゴージャスなカミレに本気で夢中らしい。エロイナは際どいショーのプロデュースで大成功しためざとい興行師なのだが、稼いだお金をキレイに使ってしまうのであまり貯金がないらしい。

 

 あまり過剰に盛り上げたりはしない淡々とした撮り方でディーヴァたちのキャラクターを掘り下げるもので、この手の映画にしては地味なほうかもしれないが、好感が持てる作品だった。

MIDWEEK BURLESQUE vol.61 -Bon Dance Party once more!-

 「MIDWEEK BURLESQUE vol.61 -Bon Dance Party once more!-」を見てきた。最近のミッドウィーク・バーレスクの中でもけっこう上演中にトラブルが起こったほうなのだが、それでも一番濃くて楽しかったように思う。

 第1部はDREAM RIGHTのハリー・ポッターのボーイレスクショーから始まり、着物美女がビーチで大暴れするm@ricaのショー、南洋の魚がサーカスに入って『グレイテスト・ショーマン』の音楽に合わせて踊り狂うマーガレットの宮殿のショー、妙法蓮華経などにあわせて降霊お盆SM?のようなものが行われるC. Snatch Z.のショーだった。第2部はCoco Flameの夏らしいゴージャスなショー、穴野をしるこの「日本昔話」にリスペクトを捧げた(?)でんぐり返し大盛りのドラァグショー、Violet Evaのエレガントなショーだった。最後はC. Snatch Z.の定番であるスナッキーで終わり。

 どの演目も個性的で、とくに第1部はビックリするような内容のものが多かった。m@ricaのショーは、前回は私はちょっと選曲があざとすぎて好きになれなかったのだが、今回は明るくカラっとしたパワフルなショーで音楽とも雰囲気がよくあっていて、とても面白いと思った。マーガレットの宮殿は、衣装トラブルにより、パフォーマーが舞台に出ても一切前が見えないままショーが始まるという大変なことが起こったが、それでもちゃんと最後に形になったのはすごかった。このショーでは"This Is Me"が使われていて、私は『グレイテスト・ショーマン』を見た時、この曲でバーレスクやるのが流行るだろうと予想していたのだが、さすがに前が見えない魚のショーで使われるとは思ってなかった…

移行しました

 本日より、はてなダイアリーを全てはてなブログに移行しました。ただ、このブログは2009年くらいからやっていたのですが、最初の写真が多いエントリなどがどうも時間がかかってうまくいかなかったのと、もう観光エントリ的なやつはいいかと思ったので、最初の2年分くらいは劇評と映画評しか移行を行いませんでした。

 

 今後も、基本は劇評・映画評ブログをやっていきたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

ウィキペディア日本語版で「デボラ・キャヴェンディッシュ」の記事を作りました

 日本語版ウィキペディアで、ミットフォード姉妹のひとりでチャッツワース・ハウスの改修を行った[[デボラ・キャヴェンディッシュ]]の記事を翻訳+加筆で作りました。ミットフォード姉妹のうち、ジェシカ(共産主義者)とダイアナ(ファシスト)を立項したので、ミットフォード一族はこれでとりあえず打ち止めにしようかと思います。