メチャクチャな世界~METライブビューイング『コジ・ファン・トゥッテ』

 METライブビューイングで『コジ・ファン・トゥッテ』を見てきた。

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 この演目は一度だけ舞台で見たことがあってけっこう気に入ったのだが、今回見たこちらは以前の新国立とはかなり違った演出だ。この話は筋立てなずいぶんとしっちゃかめっちゃかなのだが、この演出では完全にメチャクチャな夢うつつの世界みたいなところで展開する。舞台は1950年代のコニーアイランドだ。原作ではフェルランド(ベン・ブリス)とグリエルモ(アダム・プラヘトカ)がアルバニア人に変装してフィオルディリージとドラベッラを口説くのだが、アルバニアうんぬんはなくなって、軍人だったこの2人がいかにも50年代のイキった色男ふうのファッションに変装して出てくるということになっている。遊園地のウキウキしたキッチュな雰囲気の中、妙技を披露するサーカスや大道芸のプロに囲まれ、くるくる回る回転木馬ティーカップのように主人公の4人が恋人を交換する。誰が誰なのかももうあんまりよくわからないし、遊園地で起こったことがしっちゃかめっちゃかすぎて、最後はもう全部忘れて結婚するしかない。白鳥ボートで愛を囁き、気球に乗って恋の悩みを独白し、流れにのって楽しむしかない。

 

 ちょっと視覚でしっちゃかめっちゃかさを表現するところに力を入れすぎているように思えたところもあったが、全体的には面白かった。この演出では、明るく愉快な性格のドラベッラ(セレーナ・マルフィ)はけっこう最初から浮気に傾いており、とくにボアを使いながらショーガールみたいに「恋は盗人」を歌うところなんかはとても楽しいし、セクシーだ。一方でフィオルディリージ(アマンダ・マジェスキー)は大変まじめな性格で、思い詰めた様子で気球に乗って上下しながら恋心の揺れを歌うところはけっこうシリアスだ。

 

 また、二度目に見てよくわかったのは、この作品はひとりで歌うアリアが少なく、ほとんどの曲が掛け合いとか会話みたいになっているので、どちらかというとストレートプレイを歌にのせてるみたいで、作りが特殊だということだ。私は実は『ドン・ジョヴァンニ』とか『魔笛』よりも『コジ・ファン・トゥッテ』のほうが好きな気がしているのだが、これは『コジ・ファン・トゥッテ』のほうが、私がふだん見慣れているストレートプレイに近いからかもしれない。