絵の中の出来事〜新国立劇場オペラ研修所修了公演『コジ・ファン・トゥッテ』

 新国立劇場オペラ研修所修了公演『コジ・ファン・トゥッテ』を見てきた。見たことがない演目で見たいと思っていたし、去年演劇研修所の公演がなかなか良かったので、行ってきた。

 お話じたいはナンセンス艶笑落語みたいな展開の物語である。18世紀末頃のナポリが舞台である。美しい姉妹フィオルディリージとドラベッラは、それぞれグリエルモとフェルランドと婚約していた。グリエルモとフェルランドは女性の愛の誠実さを信じない学者のドン・アルフォンソにけしかけられ、自らの恋人たちの愛を試す賭けをすることにする。急に出征することになったフリをし、アルバニア人の変装で別人として姉妹に求婚するのである。ドン・アルフォンソは姉妹の小間使いデスピーナに協力させ、2人の求婚を手伝う。姉妹は最初は鼻もひかっけなかったが、嵐のような求愛とデスピーナの助言に従ってだんだんアルバニア男どもの言葉に耳を傾けるようになり、まずはドラベッラがグリエルモに陥落、志操堅固なフィオルディリージもとうとうフェルランドの愛を受け入れてしまう。すぐに結婚しようということになるが、最後にフェルランドとグリエルモが正体を現し、元々の恋人たちと結婚することにしておしまいである。

 このプロダクションは絵画を模したおしゃれなセットが特徴である。前面には額縁で囲まれ、中にCosi Fan Tutteという文字と楽譜が書かれた透けるスクリーンを設置し、これを上げたり下ろしたりすることで効果を出している。ドラベッラが変装したグリエルモに、フィオルディリージが変装したフェルランドに陥落する場面ではいいタイミングでスクリーンが降りてきて2人の姿を隠したりするので、なんかちょっとセクシーな雰囲気になる。後ろにも大きな額縁が設置されており、真ん中を客間や居間などとして使うのだが、ひとつひとつの場面が動く絵画みたいに見える演出になっている。

 話としては、タイトルが「女はみんなこうしたもの」という意味で、女性が心替わりしやすいことを嘲笑したミソジニーのオペラ…とも読めるのだが、あまりにも話が素っ頓狂なのと(デスピーナがニセ医者に扮してメスメルの石を使った怪しい磁気治療をするところとかはふざけすぎて笑劇みたいだ)、わりと男性たちも女性たち同様(あるいはそれ以上に)分別が足りないということを見せている演出だったので、そこまで気にならなかった。デスピーナが、男性たちは恋人と離れている間はきっと他の女性と会っているのになぜ女がそうしてはいけないのか、みたいな歌を歌うところは真心が足りないのは女性だけではないちおうことを暗示しているし、結局は浮気してしまった女たちと男たちが結婚するというオチは、女も男も結婚前に恋愛のトラブルがいろいろあるのはたいしておかしくないということを述べているとも言える。たぶんヒロイン姉妹に親がおらず、フィオルディリージもドラベッラも自分の恋愛や結婚について自分たちの意志だけで決められるというのがポイントなのだろうと思う。このオペラでは男にも女にも自由意志があるのだが、女は優しいのか気弱なのか懇願されると意志による決意がゆらいで他の男になびいてしまうし、男はせっかくの自由意志と知恵を恋人のまことを試すなんていうアホなことに使う。この上演はオトナの恋愛喜劇という感じだったが、やり方によってはもっと男女が等しくアホであることを辛辣に示す、むしろちょっとフェミニスト的なところもある演目として上演できるのかなと思った。