我々と同年代のスターがどんどんガンの映画とか出てるんだけどどうすんのよ?〜世界一インディロックが似合う男ジョゼフ・ゴードン・レヴィットがガンにかかる『50/50 フィフティ・フィフティ』

 『50/50 フィフティ・フィフティ』を見てきた。主演は我々のジョゼフ・ゴードン・レヴィット。30手前のラジオ局につとめている青年アダムが珍しい背中のガンにかかり、生きられる確率50%と診断されるが…という話。ジョゼフ・ゴードン・レヴィットは81年生まれでまるっきり同世代だしずーっとファンなので全く人ごととは思えない。

 話自体は親友カイル(セス・ローゲン)や両親、セラピストのケイティとの関係を軸にアダムの闘病生活をコメディタッチで描くもので、事件らしい事件といえばガン告知と手術以外には恋人に捨てられるくらいしかないのだが、役者陣がすばらしいのと脚本(セス・ローゲンの友人に起こった実話をもとにしているらしい)が気が利いているので全く飽きさせない。たぶん勝因は超フツーの好青年であるアダムと、口うるさくて気遣いを示すのがヘタで優しくしようとするほどかえってドツボにはまったりするけどやはり良いヤツであるカイルの息が大変よくあっていることだと思う。なんというかこういうどこにでもいるような人たちに突然ガンが…というので身近な設定でぐっと客を惹きつけつつ、全くお涙頂戴にはせずさわやかで少しブラックなコメディになっているあたりがうまい。あとアダムの父がアルツハイマーで母ダイアン(アンジェリカ・ヒューストン!)が一人で面倒を見ているとか、これまた現代に実によくありそうな話で親近感が湧く。夫も息子も病気でへとへとになってかえって息子との関係がうまくいかなくなってしまう母とか、本当にどこにでもいそうだ。あと犬の演技もよろしい。

 撮影もあまり自己主張は強くないのだがとても美しい。後半までは結構抑え気味な感じでシアトルの街を寒色系で撮る映像を続けていて、アダムとカイルが犬の散歩をさせる場面とかも灰色系で統一していたのに、最後近くでピンク色の満開の桜に陽光がまぶしい下を犬を連れたアダムが散歩する場面が出てくるのは本当にハッとするほどきれいだったな。ちなみに音楽は最初からトム・ヨーク(ジョゼフ・ゴードン・レヴィットだからね!インディロックじゃないとね!)などで飛ばしていたのでこの場面でペット・ショップ・ボーイズの"I Get Along"がくるかと思ったけどさすがにこなかったか。


 ひとつ欲を言うと、この映画はちゃんと福利厚生のあるラジオ局に務めている若者が主人公なので、アメリカの悪名高い保険の話とかは扱っておらず、闘病生活が主に心理的・体力的な話にしぼられていて経済的な心配の話がないところかな。同年代でも自営業者が主人公だったりすると、保険会社とやりあったりする話をまたブラックユーモアで盛り込めたのでは…と思うのだが。


 あと、全然本筋に関係ないのだが、アダムの通っている病院の表玄関の設計が『抱きたいカンケイ』のナタリー・ポートマンが務めている病院とか『グレイズ・アナトミー』のシアトルグレース病院に結構似ているのだが(imbdを見ると撮影場所が違うしよく見るとちょっと違う)、アメリカの病院ってたぶんああいう似通った感じの建物が多いんだろうなと思った。どうせシアトルという設定にするならシアトルグレースにしてくれれば良かったのに。


 まあそんなわけですごく良かったのだが、これを見て面白いと思った人は是非来年2月に日本公開の『人生はビギナーズ』(原題Beginners, 公式サイトは音が出るので注意、私のレビューはこちら)と見比べてほしいと思う。こっちはユアン・マクレガー主演なのだが、末期ガンになって苦しい闘病の末亡くなった父親を看取った息子が立ち直るまでを描いた作品で、地味なのに綺麗な映像とか犬が出てくるとか闘病の話なのにちょっとユーモアがあるという共通点がある一方、やっぱり治療がうまくいかないこともある、残された家族はどうするか…という話を扱っているので、『50/50』と見比べるといろいろ考えさせられると思う。しかし、私が子供の頃アイドルだったユアン・マクレガーはガンの父を看取る映画、同年代のスターのジョゼフ・ゴードン・レヴィットは本人がガンになる映画に出演とは…イギリス来る前に遺言を作っといて良かったな。