ジャック・ボドゥ『SF文学』〜たぶん著者はファンタジーが嫌い

 ジャック・ボドゥ『SF文学』新島進訳(白水社、2011)を読んだ。これは西洋SF小説の歴史と各ジャンルの概要を新書一冊くらいのコンパクトサイズで解説しようというものである。

 前半はSF小説の歴史、中盤はアメリカ・UK・フランスを中心にした地域ごとの特徴、後半はジャンルごとの解説が主で、まあ一冊でSFの歴史を知る、という意味ではいいガイドブックなんだと思う。あと、SFが自然科学じゃなく社会科学とか人文科学をもその扱うScienceの中に含んできた、っていう指摘はちょっとバイアスある気もするけど面白い。

 とはいえ、結構ツッコミどころもある本だと思う。まず、どういう読者をターゲットにしているのかよくわからない。ほとんど作者名とタイトルの羅列になっているところがある一方、わりと詳しく書いてあるところもあって、ほとんどSFを読んだことのない大学生とかが例えばジャンルフィクションの授業で使う教科書みたいなものとして書いたのか、それともけっこう既にSFに詳しい人が使うハンドブック的なものとして書いたのか、ちょっと判然としないところがある。

 それから、著者がフランス人ということもあるのだろうが、かなり扱っている作家の国籍が偏っている。西洋SFの本なので日本とかアジアが出てこないのはまあしょうがないと思うのだが、東欧・ロシアの話がかなり少ないと思う。あと、マーガレット・アトウッドとか出てこないのでカナダとかすらあまりカバーしてかも。
 
 あとなんかたぶん著者はファンタジーがかなり嫌いで、最後のファンタジーに関する節はちょっとひどい。「ファンタジーは魔術的な思考への回帰から生じたもので、つまり退行的だが、SFのほうは知性や知識の獲得に基づいている。ファンタジーは不合理なものを美化するが、SFは世界に対して問いかける道具である」(p. 141)って、こういう言い方ははっきり言って私はSFファン(それも科学重視型のハードSFのファン)の与太にすぎないと思うし、ファンタジーのほうがより実験できるジャンルだと考えている一部の民族マイノリティやフェミニストは全然こういう見方には与しないと思うんだけど、どう?ファンタジーとSFで対立するのってパイの食い合いみたいで私は全く関心しないのだが。