フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための本5冊(2)理論・学術・専門書編

 昨日の「フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための本5冊(1)物語・ノンフィクション編」に続いて、今日は「理論・学術・専門書編」をやろうと思う。一応「理論・学術・専門書編」とは銘打っているのだが、所謂「フェミニズムの本」の中から、私が初学者におすすめできそうだと思うものを紹介したい。

 とりあえずとにかくわかりやすさ重視にしたので、古典と言われるものでも初学者が読み通しにくそうなものは入れなかった(このせいで哲学系が入らなくなったのはとても残念だ…)。また、冊数の都合上、「クィア理論」に入りそうなものは選ばないようにした(クィア理論ならそれだけで五冊選んだほうがたぶん良いと思う)。あと、フェミニスト的な文芸研究、つまり「フェミニスト批評」に入るものは明日、別に5冊選ぶことにしようと思うので、それは入れない。



エリザベート・バダンテール『母性という神話』鈴木晶訳、筑摩書房、1998。
 フェミニズムの古典と言われる著作で、わかりやすいものはないか…という方におすすめ。母性愛が本能などではなく、近代において作られたものであることを明らかにした歴史研究書である。我々が現在、当たり前だとか本能だとか思っているものが実は新しい構築物である場合もあるということに対して目を開かせてくれる著作である。

母性という神話 (ちくま学芸文庫)
エリザベート バダンテール
筑摩書房
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・ナタリー・ゼーモン・デイヴィス『境界を生きた女たち―ユダヤ商人グリックル、修道女受肉のマリ、博物画家メーリアン』長谷川まゆ帆他訳、平凡社、2001。
 歴史に興味がある人におすすめである。女性史やジェンダーの歴史というのはめざましい発展を遂げている分野であり、また個人的に私の専門に近い分野でもあるので愛着があるのだが、意外に注目されておらず、とくにフェミニズムに詳しくない人にとってはこういうものがフェミニズムの大きな業績であることが知られていないと思う。この著書は女性の商人として活躍したユダヤ教徒グリックル、現在のカナダで先住民の言語を独習し布教活動を行った修道女で今は聖女となっている受肉のマリ、ドイツ出身でスリナムまで行って博物画家として偉大な業績を残したマリア・ジビーラ・メーリアンという、17世紀に宗教や土地など様々な境界を越えて生きた女たちの暮らしぶりをいろいろな史料から丁寧に明らかにした作品である。今まで無視されてきたが極めて興味深い仕事をした女性たちの歴史が見えてくるのは女性史の醍醐味のひとつだ。


・ロンダ・シービンガー『女性を弄ぶ博物学―リンネはなぜ乳房にこだわったのか?』小川眞里子、財部香枝訳、工作社、1996。
 科学に興味がある人におすすめ。フェミニスト科学史の業績のひとつである。私たちは自分の種族が「哺乳類」と呼ばれていることを当たり前だと思っており、昔からそういう名前で呼ばれていたように感じているが、実はこの「おっぱい」にやたらこだわる種族名が確定していったのは18世紀のことであり、ここには良妻賢母思想など様々な科学の思惑が潜んでいた。おっぱいという卑近な話題から科学における性差別の鋭い分析へとつながる本である。

女性を弄ぶ博物学―リンネはなぜ乳房にこだわったのか?
ロンダ・シービンガー 小川 眞里子 財部 香枝
工作舎
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田中美津『いのちの女たちへ―とり乱しウーマン・リブ論』新装改訂版、パンドラ書房、2010。
 政治に興味がある人におすすめ。日本のウーマンリブの伝説的な活動家である田中美津の著書の新版。「便所からの解放」という言葉が有名だが、この言葉は一聴した感じが強烈だというだけではなく、実に深い層に広がっていくようなスローガンだということがこの本を読んでいるとわかってくる。ただ、タイトルが「とり乱し」とかついているわりにはけっこう読むのに思考力を必要とする本なので、少し気合い入れて読んだほうがいいかもしれない。

いのちの女たちへ―とり乱しウーマン・リブ論
田中 美津
パンドラ
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・岡真理『彼女の「正しい」名前とは何か―第三世界フェミニズムの思想』青土社、2000。
 国際社会に興味がある人におすすめ。フェミニズムの西洋中心主義的、植民地主義的側面について鋭い批判を展開しつつ、第三世界フェミニズムについて注意深く精密に論じた著作である。これもかなり体力を要する厳しい著作だが、自分の内部にある植民地主義ミソジニーに向き合うことはとても重要なので、こうした内省的なフェミニズムの本を読むことも必要だと思う。



 なお、実はフェミニズムについてのブックガイドとしては『フェミニズムの名著50』というとても良い選書リストが出ているので、古典を読みたい人は是非そちらも見てね!

フェミニズムの名著50
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