秘密と影〜日生劇場『十二夜』

 日生劇場でジョン・ケアード演出『十二夜』を見てきた。

 このプロダクションの特徴はセットが大変凝っていることである。真ん中にはラテン語の銘文が入った日時計がある。その両脇には三重くらいになっている半円形の緑の生け垣があり、生け垣と生け垣の間は人が通れるようになっている。日時計の奥には門がある。セットの見た目はかなり『レディ・ベス』に似ていると思うのだが、どちらかというと見た目は迷路(maze)に近く、登場人物が心にたくさんの秘密を抱えている『十二夜』の物語にぴったりあっている。さらに、明るい雰囲気の芝居である『十二夜』にしては珍しく、雨や雷、影、雲などを効果的に組み込んでいるのが独創的で、とくにちらつく木陰を表した照明は登場人物の揺れる心境を象徴しているようでとても効果的だ。

 影のモチーフはキャスティングの上でも重要な位置を占めている。このプロダクションではラスト以外、音月桂ヴァイオラとセバスチャンを演じ分けていて、まるでこの双子は自分の影から引き離された身体のように見える。最後にヴァイオラとセバスチャンが出会うところでは二人が自分の影と再会し、秘めた恋心やマルヴォーリオへのイタズラを含めた全ての秘密が明るみに出るのだが、一方で不幸な秘密を開示された人々やいまだに秘密を抱えた人々は舞台に取り残され、新たに舞台に指す影の中に取り残される。最後の場面ではオリヴィアへの恋心を暴かれたマルヴォーリオ、実は自分はサー・トウビーに愛されていなかったと知ったサー・アンドルー、セバスチャンへの愛を秘めておかざるを得ないアントニオ、もう笑いを必要としないほど幸せになってしまった恋人たちの中で孤独なフェステ、という四人のみが舞台に出て、雲や雨の影にたたずむという演出になっている。恋人たちの影は解消されたかもしれないが、全てのものが明るくなるということはないのである。

 こういう感じでかなり余韻のある終わり方の作品であることもあり、笑いは控えめでかなり上品で哀愁ある演出になっていると思った。ポストトークでは「すごく笑えた」という意見が多かったのだが、たしかにポイントで笑わせるようにしていたけど私が今まで見た『十二夜』にはドタバタに近い演出を取り入れたものもあったので、それに比べればかなり哀感重視だったと思う。