ヘクターが訪ねる寺院は絶対、ジョニー・イングリッシュが修行したお寺と同じだ〜『しあわせはどこにある』(ネタバレあり)

 ピーター・チェルソム監督『しあわせはどこにある』を見てきた。

 主人公はロンドンに住む精神科医のヘクター(サイモン・ペグ)。有能で美人の恋人クララ(ロザムンド・パイク)もおり、仕事でも成功していたが、患者の話をきいているうちに幸せとは何か、どうやったら幸せになれるのかについて考えはじめてしまう。悩んでしまったヘクターは、幸せを探すためにひとり、世界旅行に出るが…

 基本的に話はありがちな自分探しモノで、行く先々で出会うものもなんかどっかで見たことがあるようなネタばっかりである。とくに中国のシークエンスはうんざりするほど定型で、まずは中国で地元の美人にそれと知らずに恋してしまうのだが娼婦とわかって大ショック、その後に山奥にあるチベット仏教の寺院で老師に教えを受けるという、ありがちすぎるひねりゼロの展開で正直あんまり面白くはなく、ヘクターがかなり薄っぺらい人に見えてしまう。その後はちょっと面白くなり、アフリカで医療支援やってる友達のところに行ったらさりげなくゲイだとカムアウトされたり(この描写は大変気が利いてて良かった)、途中で地元のギャングに誘拐されたり、飛行機で知り合ったおばちゃまにパーティに招かれたり、このあたりはわりとメリハリがある展開になっている。そこから逃げ出してアメリカに向かう途中で飛行機でお医者様はいらっしゃいませんかシチュエーションに遭遇、ロサンゼルスで昔の恋人アグネス(トニ・コレット)に会うが結局自分はクララを愛してると気付いて…というオチ。青い鳥はおうちにいました、というものである。中盤はともかく最初と最後は意外性が全然ない。この手の話なら、まだ『LIFE!』のほうが面白かったと思う。

 とはいえ、こんだけ意外性もひねりもないあらすじでも、役者が全員やたらに芸達者なのでなんとか見られる。サイモン・ペグはとにかくものすごく人好きがするので、薄っぺらいふるまいをしてもなんか笑って見ていられる。ロザムンド・パイク演じるクララもキャラの描き方は全然パッとしなくて、ヘクターが誘拐されたと知らせた後の反応とかはものすごく不自然だと思うのでちょっと台本に問題がある気がするのだが、それでもパイク本人はキレイで演技もうまい。さらに行く先々でステラン・スカルスガルドジャン・レノトニ・コレットクリストファー・プラマーなどの芸達者な面々がちょろっと登場してやたら説得力ある演技を披露して去って行くので、それだけでけっこう面白いとは言える。

 ちなみに最後、クリストファー・プラマー演じる心理学の教授がヘクターの脳から感情を測定するところがあるのだが、最近ああいう感情を脳で切り分けるみたいな映画がはやりなのかな?『脳内ポイズンベリー』やピクサーの『インサイド・ヘッド』もそういう映画なんだよね?

 なお、ひとつだけこの映画についてどうしても言いたいことがある。それは、ヘクターが訪れたチベット仏教の寺院は『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』に出てきたお寺と同じに違いないということである。どちらも伊川東吾演じるやたら情報技術に通じた導師が出てくるし、「上だよ」という決めぜりふもソックリだ。そしてどっちもロザムンド・パイクが出ている!ということは、あのままあのお寺に住んでたらヘクターは例の股間に石をぶらさげる修行をやらされていたかもしれないということだ。ヘクターが滞在を早く切り上げて良かった。