若き芸術家、ジェームズ・ディーン〜『ディーン、君がいた瞬間』

 ジェームズ・ディーンと、ディーンを撮影した写真家デニス・ストックについての実話を映画化した『ディーン、君がいた瞬間』を見た。

 基本的にデニスがジミーにしつこく頼み込み、ジミーの田舎にまでついていって写真を撮るというだけの話である。才能に富んでいるがまだ完全に花開いていない芸術家どうしの地味なやりとりを誠実に淡々と描いているのだが、主演の2人の演技がとても良い。また、ハリウッド、ニューヨーク、ジミーの実家があるインディアナ州の農場と移動する風景も味わいがあって、最後まで飽きさせない。

 デニスは広告写真を撮っていてまだ自分が撮りたいものとか作家性を見いだせていない駆け出しの写真家で、家庭生活も離婚し子どもとはうまく接することができなくてムチャクチャになっているが、まだ『エデンの東』公開前なのに際立ったカリスマ性を見せるジミーの写真を撮ることで自分の芸術を発見する手がかりをつかむことができるようになる。ロバート・パティンソンが、やる気はあるのだが子どもっぽく、しみったれている芸術家志望の男を地味に演じていて、これが本当に『トワイライト』シリーズの色男かと思うような変身ぶりだ。一方でジミーを演じるデイン・デハーンはどっちかというとジミーよりはリヴァー・フェニックスを思わせる感じなのだが、あまりわざとらしくジミーに似せようとしていないところが功を奏し、非常に自然な魅力を発揮している。この映画ではジミーをハリウッドのスター文化になじめない非常にアーティスト気質の若者として描いており、既にかなり自分の芸術に自信を持っていて俳優修業の方針も定まっているジミーがデニスに芸術への情熱を呼び起こすという設定がなかなかうまい。
 この2人の関係はあまり熱っぽいブロマンスとしては描かれていないのもリアルでいいと思った。デニスが一方的に被写体としてジミーを口説く序盤のあとは、ビジネス上の付き合いのようでいてだんだん芸術家同士として通じ合い、微妙に距離感が縮まっていくところが自然に描かれている。ジミーがもっと長生きしたらさらに長く続く実り多い芸術的協働になったのかもしれないが、そこまでいかない淡い友情のうちに終わってしまった、という感じのちょっと切ない幕切れである。
 この映画はベクデル・テストはパスしないのだが、若い頃のアーサ・キットとジミーがダンスするというすごくアツい場面がある。史実では、既にアーサはこの映画が設定されている1955年頃にはキャリアある歌手だったと思うのだが、駆け出しの美しき芸術家ふたりが踊るみたいな場面になっていてとても若々しい。