ハリウッドの中年女性差別~『サンセット大通り』

 ミュージカル『サンセット大通り』を見てきた。ビリー・ワイルダーの有名映画をアンドルー・ロイド=ウェバーがミュージカル化したものである。私が見た回はノーマが安蘭けい、ジョーが松下優也だった。

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 話はほぼ映画と同じで、売れない脚本家のジョーがサイレント映画の大スターで今ではサンセット大通りで隠遁生活を送っているノーマに出会い、ノーマのカムバックのために脚本を手伝う仕事をさせられる…という物語である。ハリウッドの内幕を容赦なく描いた作品だ。

 さすがにアンドルー・ロイド=ウェバーなので音楽はツボをおさえたもので、ちょっとオペラ風にふつうなら台詞で言いそうなところも歌にしたり、わりと短く盛り上げて終わる歌があると思ったらじっくりめに歌い上げるところもあったり、メリハリがきいている。あと、ノーマのお屋敷のセットが大変に豪華で、映画でも大事な役割を果たす階段が真ん中に設置されていてかなり存在感がある。衣装なども綺麗だし、非常にお金のかかったプロダクションだと思われる。

 ただ、安蘭けい演じるノーマを見てちょっと思ったのだが、映画のグロリア・スワンソンはわりと強烈にグロテスクでナルシストな感じだった一方、安蘭けいは現役の舞台女優感が強い。というか、まず安蘭ノーマが初めて階段にあらわれるところで客席から拍手が起きるのである。まあその気持ちはわかるのだが(たしかに魅力的だ)、こういう内容のお芝居でここで拍手をするのはムードがなくなるのでは…という気がした。ノーマはひとりで世間から忘れられて暮らしている設定なので、まあ脳内では常に拍手が鳴り響いているのかもしれないが、実際はなんか静まりかえっているのに不自然に大げさに出てくる、みたいな登場場面なのではないかと思うのである。そこで拍手が起こると、安蘭ではなくノーマの現役スター感が高まってしまうので、ちょっと雰囲気としては入り込みづらい。

 さらに昔に比べると、ミソジニー感なしにグロテスクな中年女を容赦なく描くというのは難しくなってきていると思うので、この舞台を見ていると、まあ演技スタイルはトーキー向きじゃなかったのだろうが今でもゴージャスなのに、すっかり役がなくなってしまったノーマが、ハリウッドの中年女性差別の象徴に思えてかわいそうに見えてくるところもちょっとある。あと、これにはジョーの友達で駆け出し脚本家であるベティのキャラクター造形がちょっとあんまりうまくいってないところがあるのかもしれない…というのも、このプロダクションのベティ(平野綾)はやたら明るくてハイテンションな性格だ。ベティはノーマと対極にあるようなキャラとして描いたほうがいいと思うのだが、なんかふたりともけっこうテンション高い人なので、対比があんまりうまくいっておらず、いや別にノーマはベティに比べてもけっこうゴージャスなのでは…と思ってしまう。小娘感を出したかったのだろうが、小娘感を犠牲にしてでも、ノーマとはっきり対比されるかなり落ち着きのある性格に演出したほうがいいと思う。

 あと、全体的に照明がけっこう良かった。セットの特徴に合わせてあまり悪目立ちしない照明なのだが、最後、正気を失ってしまったノーマが舞台の中央に出てくるところで、スポットがぐわーっと四方八方からノーマに集まる。ここはとてもわざとらしく芝居がかっているのだが、これがノーマのキャラによくあっていて、終わり方として効果的だった。