水!手洗い!~『マクベスの悲劇』

 俳優座で『マクベスの悲劇』を見てきた。

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 新しい台本を使い、あまりカットなしでやるというものである。完全ノーカットというわけではなく(付け足しと考えられているヘカテの場面などはない)、また最初にマクベス夫妻の強い愛情を示すべく、台本にはないマクベス夫妻の結婚式の場面が付け加えられているのだが、かなりカットが少ない。途中でイングランド王は手を触れることで瘰癧の患者を治せる奇跡の力を持っているとかいう台詞があり、私はこの部分をカットしないでやっている『マクベス』はあんまり見たことがないのだが(皆無ではないと思う)、このプロダクションではそこもやっていた。

 

 特徴は舞台の真ん中にある水である。四角く切り抜いたところに水が入っており、最初はふたがしてあってふつうの床のように見えるのだが、どんどん水の開口部が大きくなって、演出上水が重要になってくる。コロナウイルス流行ということもあり、水はかなり塩素臭のするプールっぽい水なのだが、これがマクベス夫妻の血にまみれた手の洗浄というこの芝居の有名な箇所にからめて、要所要所で使用されている。手洗いの奨励ということでは大変時事にそった演出だ。水による清めというようなことが演出の視覚的な中心にあるのだが、ちょっとこれを強調しすぎてくどいかな…というところもあったものの、だいたいはうまくいっていたように思う。強調しすぎと思ったのはマクダフ(小田伸泰)がマルカム王子(辻井亮人)を押さえつけて水をぶっかけながらスコットランドの惨状を嘆くところで、あそこでマルカム王子があまり抵抗しないのは、いくら水による清めが大事な演出とはいえ人間の動作としてちょっと不自然だろうと思った。