ナショナル・シアター・ライヴ『ハングメン』を見てきた。マーティン・マクドナーの芝居で、マシュー・ダンスターが演出を担当している。ロイヤル・コート劇場で初演された後、ウィンダム劇場に移った。
絞首刑が廃止されることになった60年代はじめ、イギリス北部のオールダムの街では、死刑執行人で妻とともにパブを経営しているハリー(デヴィッド・モリッシー)が新聞の取材を受けていた。かつてハリーが死刑執行した女性を狙う殺人事件の容疑者が冤罪であったのでは…という話が蒸し返され、これについてかつてハリーのアシスタントだったシド(アンディ・ナイマン)がちょっとした情報をハリーに与える。一方、ロンドンから見慣れない若い男ムーニー(ジョニー・フリン)がやって来てパブの娘で15歳であるシャーリー(ブロンウィン・ジェームズ)にちょっかいを出し始めるが…
大部分がハリーとその妻アリス(サリー・ロジャーズ)のパブで展開するのだが、このパブのセットがとても良くできており、本当のパブみたいに見える。登場人物はだいたい物凄い速度でパイントグラスをあける飲んだくればっかりなのだが、一方でシドはハーフパイントしか頼まず、ちょっと弱っちい感じがする。一方、60年代ロンドンのオシャレな雰囲気を持ち込むすかした野郎、ムーニーはこの北部の古いパブではよそ者だ。街の人々が集まる一方、新参者もやってくる集会所としてのパブの雰囲気を使った演出が丁寧な作品である。
全体的には非常にブラックユーモアあふれる内容で、笑わせて怖いマクドナー節である。ネタバレになるので詳しくは言えないのだが、とくかく台詞がよく書けていて笑ってしまう。ただ、最後の展開はマクドナーの前作『ウィー・トーマス』に似ていて、けっこう読める。
この作品を見てちょっと面白いと思ったのが、『ハングメン』にも『ウィー・トーマス』にも未成年女性に対する性的関心のモチーフがあることである。『ハングメン』ではムーニーが15歳のシャーリーに手を出した上に振ってしまうというひどいことをする一方、『ウィー・トーマス』でも16歳くらいのメアリードにパドレイグが熱を上げる場面がある。こういう未成年の女性に対する男性の執着はブラックユーモア劇における風刺の要素があるのだと思うのだが、普通の芝居に出てくるペドファイルの描写とは相当違うので、もうちょっと注目して分析してみると面白いかもしれないと思った。