緑の島に、血まみれの赤黒い笑い〜『ウィー・トーマス』(ネタバレあり)

 ドイツ出張後、週末だけロンドンに行ってノエル・カワード劇場でマイケル・グランデージ演出、エイダン・ターナー主演で、マーティン・マクドナーの『ウィー・トーマス』を見てきた。舞台で見るのは初めてである。

 舞台は1993年のアイルランド、イニシュモア島。イカれたアイルランド国民解放軍(INLA)のテロリスト、ポードリッグ(エイダン・ターナー。なお、名前の発音はあんまり自信ない)は愛猫ウィー・トーマスが病気だという知らせを受けて、急いで故郷のイニシュモアの村に帰るが、実はウィー・トーマスは頭をブチ割られて死んでおり、ポードリッグを恐れた父のドニーと近所のデイヴィが嘘をついてウィー・トーマスは病気だとポードリッグに知らせただけだった。慌てたデイヴィは妹マレードの猫サー・ロジャーを盗んで、ドニーと一緒に黒塗りにして誤魔化そうとするが…

 ほとんどはイニシュモアのドニーの家で展開するのだが、この家のセットはかなり作り込んだものだ。道端とか冒頭の北アイルランドの倉庫の場面は、セットの前にヒツジとか草原とか、田舎の風景を抽象化した感じの模様が描かれた幕を下ろして、その前の狭いパフォーマンススペースで展開される。セット替えがないので流れはスムーズだ。

 とにかくブラックユーモア溢れる作品で、完全におかしいとしか思えないポードリッグがものすごい暴力を振るうのだが、それが現実離れしてるくらい陰惨なので、流血がエスカレートするほど笑っちゃうというとんでもない芝居である。冒頭でポードリッグがドラッグの売人を逆さ吊りにして拷問するところからなんかもうおかしいし、終盤でバラバラにされた人体がイニシュモアの田舎の家にぶらさがってるあたりは会場大爆笑だった。ポードリッグ以外の連中もまともな人間はほとんど出てこず、ドニーとデイヴィはマクドナー作品特有のバカな人たちなので、状況を改善させようとしてやったことがどんどん裏目にでて事態が悪化する。一番賢いのはマレードなのだろうが、マレードもかなり変…というか頭が働くぶん、暴力が陰惨だ。

 エイダン・ターナーは大変良くて、自分の猫以外には全く人間らしい愛情を示さない狂ったテロリストを楽しそうに演じている。『ロード・オブ・ザ・リング』や『ポルダーク』の色男とは大違いで、大げさに泣いたり暴力を振るったりするところが大変可笑しく、コメディのセンスもあるんだなと思った。なお、全員かなり濃いアイルランドの田舎の訛りで話しているので台詞がよくわからないところがたくさんあった…のだが、私が英語が下手だからなんだろうと思っていたら、レビューを見たところロンドン子でも難しかったらしい。ちなみに初めてダブリンで『イニシュマン島のビリー』を見た時も、アイルランドの西のほうの訛りがすごくて台詞がよくわからないところがたくさんあったので、ダブリン以外のアイルランド訛りは私はかなり苦手らしい…もう少し聞き取れるようになりたい。