ヘイマーケットにあるエンパイア・シネマでエマ・ライス演出『逢びき』を見てきた。言わずと知れたノエル・カワードの有名戯曲でデヴィッド・リーンの映画化で名高い。駅で出会ったローラとアレック、家庭を持つ2人の男女の恋愛を丁寧に描いたロマンスものの古典である。
この演出は、映画館で上演するというだけあって、映画と舞台をシームレスにつなぐ、かなり凝った演出である。冒頭場面などでは前方にスクリーンを設置して、役者がスクリーンの切れ目に入るとあらかじめ撮っておいたモノクロの映像になり、ここがかなり滑らかにつながるようになっている。ローラが水にもぐるちょっとドリームシークエンスみたいな映像がうつるところがあるのだが、幻想を映像で示すというこういう演出もオーソドックスだがうまくできてる。ふだんは前方のスクリーンを上げて、背景は投影で処理している。背景の前には二階建ての駅のホームを模したセットがあって、ここが駅になったり、ヒロインであるローラ(イザベル・ポレン)の家になったりする。クライマックスでは前方に下半分だけスクリーンが降りて、ローラが奥のセットに二階部分にのぼり、そこからスクリーンの中、行ってしまう列車を見つめるという演出になっており、ここはかなり切なくてドラマティックだ。
一方でいかにも舞台らしい演出もたくさんある。スクリーンの上げ下ろしやセット替えなどの時には昔の映画館風な緞帳が下りて、その前でローラとアレック(ジム・スタージョン)以外の登場人物が30年代の歌(ほとんどはノエル・カワードの作品だと思う)を生演奏するのだが、この歌詞や振付などがちょっと物語の内容に関係あるものだったりして、このあたりも音楽と話がうまくつながってる。また、例のラフマニノフのピアノ交響曲もふんだんに登場し、ローラが最後にこの曲をしばらく弾いていなかったピアノで弾くところがある。一番舞台らしい演出はローラとアレックが吊り物につかまって空を飛ぶところで、これはバカバカしくなるギリギリのところで、二人の恋心の高まりをうまく示していたと思う。
全体的に大変演出が斬新で、映像をうまく使っているのにキザな感じがなく、とても面白かった。『逢びき』は短い戯曲だし、地味な作品でたぶん今ふつうにやるとちょっと古くさいのではという気もするのだが、このプロダクションは全然そんなことはなく、古典的な戯曲を現代風に完全にアップデートしていると思う。舞台の上で映像を使う時はどうすべきかということについて多くの示唆を与えてくれる上演だった。