ボウイが亡くなったのはとても悲しいけど、ヘインズ、良かったねと言いたい〜『ワンダーストラック』(ネタバレあり)

 トッド・ヘインズの新作『ワンダーストラック』を見てきた。

 1927年(モノクロ)と1977年(カラー)に分かれた2つの話が展開する。1927年パートでは、サイレント映画のスターである母リリアン(ジュリアン・ムーア)に会うため家出してニューヨークに行く、生まれた時から耳の聞こえない少女ローズ(ミリセント・シモンズ)の冒険を描く。1977年パートでは、父を探して家出した、突然聴力を失った少年ベン(オークスフェグリー)の冒険を描く。最後にこの2つの物語が重なる。
 全体的には紛れもなくトッド・ヘインズの映画だ。細かいところまでこだわりがあり、サイレント映画っぽくやや誇張された質感の20年パートと、非常にリアルな質感の70年代パートの対比がとてもきちんとしている。二役を演じるジュリアン・ムーアの演じ分け(演技や衣装もさることながら、メイクさんの工夫がすごい)をはじめとして役者陣も良く、子役はふたりともとても上手だ。とくにミリセント・シモンズはA Quiet Placeにも出ている子役で、本人も耳が聞こえないアメリカ手話のネイティヴだそうだが、サイレント映画っぽいちょっとレトロな作りの画面にきっちり合うが、一方でわざとらしくはならない演技をしていて感心した。
 ただ、個人的な好みとしては、『ベルベット・ゴールドマイン』や『キャロル』に比べると話があっさりしすぎているというか、展開も静かで控えめだし、とくに結末がちょっと軽すぎると思う。見ていて「なんでローズやウォルターは自分からこの子に連絡をとろうとしなかったんだろう?」と思ったのだが、そのへんの事情に突っ込まないのが私としてはかなり不消化だった。
 しかしながら、すごく私がびっくりしたのは、デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」がほとんどテーマ曲みたいに使われていることだ。『ベルベット・ゴールドマイン』を撮った時は、映画のタイトルをボウイの曲からとっているにもかかわらず、内容の問題で一曲もボウイの使用が許可されなかった。『ワンダーストラック』はヘインズがボウイの死後に作った初めての映画なのだが、「スペース・オディティ」がふんだんに使われているのはボウイが亡くなったからなのか、内容が心温まる子供のお話でグラムロックとかに関係ないからなのか、とにかくわからないが、この「スペース・オディティ」が流れてきた瞬間に私はけっこう他のことがどうでもよくなってしまった。ボウイが亡くなったのはとても悲しいけど、ヘインズ、良かったねと言いたい。