美しい映画の終わりは…〜『山猫』4K修復版

 ルキノ・ヴィスコンティ監督『山猫』の修復版回顧上映を恵比寿ガーデンシネマで見てきた。

 イタリア統一運動を背景に貴族社会の終焉を描く歴史映画だが、ストーリーじたいにはそんなに起伏があるわけではない。主人公であるシチリアの貴族サリーナ公(バート・ランカスター)は内省的で(しかも映画が進むとどんどんこの内省的な性格が老いとともにすすむ)、自分たちの時代が終わっていくことを理解しており、無理に抗ったり政治的行動を起こしたりはしない。サリーナ公はまだ小さい息子たちよりも若くてハンサムで機を見るのに聡い甥タンクレディ(アラン・ドロン)のことを気にかけているようなのだが、タンクレディは貴族の大人しい娘ではなく、勃興しつつあるブルジョワの娘で美しく活力溢れるアンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)と婚約する。

 とにかく映像が美しい作品で、どの場面をとっても絵画になりそうだ。多数のエキストラが動員されているのだが、群衆シーンでもひとりひとりの動きがきちんとコントロールされ、かつわざとらしくなく撮られているように見える。計算された画面の完成度というのはCGの使用とかには関係のないものなんだということを改めて思った。今どきこんな完成された画面を撮れる監督がいるだろうかと考えてしまったのだが、『キャロル』を撮ったトッド・ヘインズがちょっとそういうところあるかもと思う。
 
 前半はけっこう大がかりな戦争映画で後半はほとんど舞踏会なのだが、要所要所で笑うところがあるのもいい。とくに終盤、華麗な舞踏会に疲れたサリーナ公が洗面所で身繕いをしていると、尿がなみなみと入ったおまるが大量に置かれた部屋に出会してしまうというところは、美しいものと、その裏に隠れた人間の滑稽な営みの対比がよく現れていておかしい。ちなみにここはちょっと『細雪』に似ていると思った…というのも、『細雪』はとても美しい小説だが、最後はなぜか下痢の話で終わるからである。