デヴィッド・ボウイの音楽を使わないボウイの伝記映画を2本作る必要、ある?~『スターダスト』

 『スターダスト』を見た。1971年、『世界を売った男』を出したばかりのデヴィッド・ボウイ(ジョニー・フリン)が渡米し、マーキュリー・レコードの広報担当であるロン・オバーマン(マーク・マロン)とプロモーションツアーをする様子を描いた伝記ものである。

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 ツアーじたいはビザのトラブルのせいでボウイがアメリカで公演をすることができず、しょぼいプライベートパーティみたいなところで違法?に歌いながらいろんなところでインタビューや売り込みをしようとして失敗…みたいな感じで、全く盛り上がらない。そういうダメダメなツアーからもボウイはいろいろなものを得ることができました…という話なのだが、そもそもなんでそんな盛り上がらない話をわざわざ映画に…と思ってしまう。この作品はボウイの遺族からは許諾が出なくてボウイの曲が使われておらず、さらにオーバマンの家族からも全然史実に基づいてないとか言われているそうで、予告が出た時点でファンからも不評だった。家族が気に入っていないというのはあんまり出来の良し悪しには関係ないと思うのだが、そうは言ってもこれはまあみんな面白いとは思わないだろうな…と思うような作品である。

 そもそもデヴィッド・ボウイというのはロックの歴史の中でも大変影響力があり、音楽的才能があるばかりではなくショーの作り方や宣伝、経営などのさまざまな点で革新的で、美貌と美声も伝説的である。そういうアーティストの映画を作る際にはどんな役者をキャスティングしても幻滅とか反発はあると思う(フリンはもともとシェイクスピア劇の女形出身でミュージシャンでもあるので、よくやってると思うが)。そこで楽曲も使えないとなると相当厳しい。しかしながら既にトッド・ヘインズは『ベルベット・ゴールドマイン』を作る時にこれを創意工夫でクリアするという離れ業をやっており、私の考えではこの作品は音楽映画の中ではかなりの傑作であると思うので、同じことをヘインズに見劣りしないやり方でもういっぺんやるというのは正直、無理だと思う。無理そうに見えることをやってやっぱり無理でした、という映画である。

 ちなみにこの映画に出てくるロン・オーバマンのきょうだいであるマイケルも音楽関係者で、このボウイの初渡米の時のことにも触れている本を出しているらしい。これはけっこう読んでみたいと思っているのだが、まだ入手できていない。