よくできているが、好みかというと…『ムサシ』(配信、ネタバレあり)

 彩の国さいたま芸術劇場の配信で『ムサシ』を見た。井上ひさしの戯曲で、蜷川幸雄演出で有名な作品であり、追悼企画として上演されたものである。蜷川はお亡くなりになっているので、こちらのプロダクションについては吉田鋼太郎があとを引き継いで演出している。horipro-stage.jp

 宮本武蔵藤原竜也)と佐々木小次郎溝端淳平)の巌流島の対決から始まるのだが、実は小次郎は生きていた。時間をかけて回復した小次郎は武蔵と鎌倉で会って再戦しようという話になる。ちょうど武蔵が新しい禅寺の建立にかかわっており、お寺で3日間、参籠してから決闘を…ということになり、その3日間を描くというものである。

 竹林に囲まれたお寺があり、夜になると後ろに大きな月がのぼるという舞台で、とても手の込んだ綺麗なセットである(配信にはセットの舞台裏の特別映像もついている)。前半はお寺が舞台ということもあってちょっと『道元の冒険』みたいな感じで、信仰とスポーツ(『道元の冒険』では卓球、『ムサシ』ではスポーツというには荒々しいが剣道)が重ねあわされるところも似ている。けっこう笑えるところもあるし、報復の連鎖をどうやって断ち切るべきかというテーマもちゃんと扱われている。よくできたお芝居ではあるのだが、ただ私は終盤の種明かしがどうもちょっと強引な気がして、あまり好みではなかった。なんというか、報復の連鎖をどう断ち切るかというようなことは現世で解決すべき世俗的な問題である気がするのだが、そこに死後の世界とか成仏みたいな話が入ってきてしまうところがあまり好きになれなかった。ただ、これは完全に個人の趣味の問題で、こういうところが気にならなければ大変楽しく見られるお芝居だろうなとは思う。