アメリカ政治がマトモだった時代の政治コメディを彷彿とさせる映画~『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』(ネタバレ注意)

 『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』を見た(日本公開はだいぶ先なのでネタバレ注意)。

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 ジャーナリストのフレッド(セス・ローゲン)は会社を辞めることになり、失業中に出かけたパーティでふとしたことから子供時代の知り合いである国務長官シャーロット(シャーリーズ・セロン)に再会する。大統領候補を目指すシャーロットはスピーチライターとしてフレッドを起用するが、2人はどんどん接近して恋に落ちる。しかしながら、貧乏臭く先鋭的なライターであるフレッドとの恋は、パブリックイメージを守るため心を砕かねばならないシャーロットにとって政治的には鬼門である。2人の恋はうまくいくのか…

 

 ドナルド・トランプから悪意を取り除いたようなアホな大統領が出てくる作品ではあるものの、全体としては『デーヴ』(1993)とか『アメリカン・プレジデント』(1995)みたいな、アメリカ政治がまだまあ比較的まともだった時代に作られていた、よくできた政治コメディを思わせる作品である。さらに『プリティ・ウーマン』(1990)風の、エリートと貧しい苦労人の格差恋愛を盛り込んでいるのだが、ポイントはエリート政治家側が女性、貧しい苦労人が男性になっていることだ。

 シャーロットを演じるセロンとフレッドを演じるローゲンの相性が抜群で、この2人の掛け合いを見ているだけで面白い。シャーロットは完璧超人なのだが、いかにも政治の世界で生きてきた女性らしく、ものすごく用心深くてなかなか楽しいこと、面白いことに足を踏み出せない真面目さがある(ベクデル・テストはシャーロットと女性スタッフたちの会話でパスする)。しかしながらそのせいでストレスがたまっているようで、内輪の場ではやたらとFワードを連発するなど、ちょっとイラついているところがある。一方でフレッドは金稼ぎは下手だがとてもユーモアのセンスがあり、一緒にいるとすごく愉しくてリラックスできる人物だ。2人で互いに足りないところを補っているうちに恋に落ちていくわけだが、最近見たロマンティックコメディの中では主演同士のケミストリがすごくよく働いている。脚本もよく考えられており、最後、トラブル続きのこの恋をどうするかについてのシャーロットが決断を下すまでがしっかり描かれている。

 

 ただ、たぶん今のアメリカはあまりにも政治がメチャクチャなので、こういう90年代風の「良きアメリカ政治」への信頼が裏にあるような映画は受けないんだろうなーと思う。とても楽しい作品なのに、あまりお客さんが入らなかったらしいのは残念だ。