2点を除いてはとても良かった~『ウエスト・サイド・ストーリー』(ネタバレあり)

 スティーヴン・スピルバーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』を見てきた。言わすと知れた有名ミュージカルのリメイクで、原作は『ロミオとジュリエット』である。

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 基本的なお話は変わっていないのだが、スピルバーグとよく一緒に仕事をしていて『エンジェルス・イン・アメリカ』作者であるトニー・クシュナーが台本を作り直しており、これがかなり効いている。プエルトリコ系への人種差別やジェントリフィケーションによって貧困層のコミュニティが無くなることなど、明確に社会問題が織り込まれている。女性陣のキャラクターがよりはっきりしており、アニータ(アリアナ・デボーズ)は服飾店を持つことを夢見ていてボクサーとして成功しつつあるベルナルド(デイヴィッド・アルヴァレス)の求婚に対しては慎重だし、妹のマリア(レイチェル・ゼグラー)も兄の保守的な振る舞いには批判的で大学に行きたがっている。ドクにあたる役バレンティーナを前の映画化ではアニータ役だったリタ・モレノが演じており、白人男性と結婚したプエルトリコ系の女性でコミュニティの融和に尽力しようとしているという複雑な役柄に発展させている。トランス男性であるエニボディス役はノンバイナリの役者であるアイリス・メナスが演じており、これもしっかりした役柄になっている。また、リフ(マイク・ファイスト)はトニー(アンセル・エルゴート)のことが好きなんじゃないかと思わせるところはもともとあったのだが、このバージョンではそれがよりはっきりしているというか、"Cool"にあわせて銃の取り合いをするところでは、リフがトニーに対して抱いているエロティックな感情が歌や振付を通して描かれていると思う。

 そういうわけで良いところはたくさんあるのだが、一方で2点、どうしてもひっかかるところがあり、しかもそれがけっこう大きいポイントである。ひとつめはアンセル・エルゴートがトニー役だということだ。エルゴートに対してはティーンの女性ファンから性的な暴力や嫌がらせの告発が複数あり、立件されていないのでどの程度悪質な強要があったのかとかははっきりしていなくて疑惑にとどまっているのだが、本人が認めていることだけからしても、おそらく年下のファンの女の子に対して好意を弄ぶようなひどい扱いをしていたことは事実だろうと推定できる。そういうエルゴートが7歳も年下のレイチェル・ゼグラーを口説いているのを見るのは、正直、相当に居心地が悪い。そもそもエルゴート自身の背がデカい上に今回のトニーは一度刑務所に入っていて苦労していたという設定で、一方でマリアは18歳くらいでわりと幼い感じに作っているのもあって、トニーがマリアよりもかなり大人に見えてしまう。もうちょっと年が近い感じに作れなかったのかと思ってしまう(たとえばトム・ホランドだったら、実年齢がちょっと年上でも全然、「大人が年下の女の子に突然夢中に」みたいな感じにはならないだろうに…などと思ってしまった)。

 もうひとつ気になったのは、この題材ならもっとプエルトリコ系のスタッフをばんばん雇って前面に出して作ったほうがいいのではと思ったということである。もともとこの作品はユダヤ系のクリエイターが組んで作った作品なので、今回もスピルバーグとクシュナーというユダヤ系のクリエイターが組んで作っているのだが、正直これならリン=マヌエル・ミランダとかが作ったものを見たいよな…という気がする。キャストはぼちぼちプエルトリコ系がいるのだが、マリア役のゼグラーはとても上手ではあるもののコロンビア系でプエルトリコ系の女優ではない(これはプエルトリコ系のレビュアーからも指摘されていた)。もっとプエルトリコ色全開の映画にしてもいいと思うのだが…