どうってことない料理映画に突如現れる可愛さ爆弾〜『二ツ星の料理人』

 『二ツ星の料理人』を見てきた。

 主人公はドラッグ中毒で何もかも失い、しばらく雲隠れしていた天才シェフ、アダム・ジョーンズ(ブラッドリー・クーパー)。フランスで店をつぶして周りに大迷惑をかけまくっていたのだが、ロンドンで再起をはかり、かつての友人たちに接触。人を集め、給仕長トニー(ダニエル・ブリュール)の助けでランガム・ホテルのシェフになる。アダムの運命はいったい…

 展開じたいはどうってことない普通の料理映画である。とんでもない迷惑野郎のアダムがカリスマと魅力だけで周りの人をたらし込んでいってしまうあたりはかなり強引だし、挫折と再起の展開もありきたりで、料理ものとしては『シェフ 〜三ツ星フードトラック始めました〜』とかのほうが良く描けていると思う。

 ただ、役者が皆達者なのでけっこう見られるものになっている。主演のブラッドリー・クーパーが精神不安定で怒ってばかりのカリスマシェフというのはまあ得意なタイプの役柄だからいいとしても、シエナ・ミラーがくたびれた料理人役なのが意外にハマっていた(ただ、パーティの場面で突然モデル感丸出しのすごくキレイなドレスでキメッキメで登場するのはちょっとやりすぎと思ったが…)。ベクデル・テストはシエナ・ミラー演じるエレーヌと娘リリーが学校に行こうとするときの会話でパスする。精神科医役のエマ・トンプソンとか、料理人ミシェル役のオマール・シーとか、ちょっとだけ出てくる料理評論家のシモーネを演じるユマ・サーマンとか、端役も良い役者を揃えている。

 しかしながらこの映画の一番の見所は異常に可愛らしいダニエル・ブリュールである。ブリュールは最近、『ラッシュ』とか『シビル・ウォー』とかとても人生がつらい人の役が多く、やる気さえ出せばたいへんイイ男で通るはずなのにこのところ重い役ばかりで男ぶりをアピールする機会があまりなかった。ところがこの映画では優秀な給仕長にしてアダムの親友であり、実はゲイでアダムにかなわぬ恋をしているトニーを演じていて、キュートな魅力全開である。細かい表情やら仕草やらがまったくビックリするような愛らしさで、それを見るだけでも価値がある。ブリュールはまだまだ色男の役ができる年なんだからもっとロマンティックコメディとかにも出てほしい。