エコール・ド・パリそのままの画面〜『僕とカミンスキーの旅』

 ヴォルフガング・ベッカー監督『僕とカミンスキーの旅』を見てきた。ベッカー監督、ダニエル・ブリュール主演ということで、『グッバイ、レーニン!』のチームの再結集である。

 うだつのあがらない美術ジャーナリスト、ゼバスティアン(ダニエル・ブリュール)がマティスの弟子で今は盲目になり、引退している有名画家カミンスキー(イェスパー・クリステンセン)を取材しようとするが、カミンスキーは変なおじいちゃんでいろいろ振り回されて…という展開である。

 内容的にはあまり新しさとかはなく、ちょっと中だるみするところもあり、まあ普通という感じだった。見所は絵画みたいな画面の作りで、風景がエコール・ド・パリそのまんまの絵になったり、最後のクレジットで絵が動いたりするところをはじめとして、全体的に美術にこだわった綺麗な画面作りを心がけている。高齢で気難しいがひどく忘れっぽいカミンスキーを中心としたオフビートなユーモアも笑える。ダニエル・ブリュールはここのところ『ラッシュ』とか『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』とか、いかにもつらい人生を歩んでいてやつれている気の毒な人みたいな役が多かったのだが、この映画ではかなりハンサムぶりを全開にしており、生意気で空気が読めなくていけすかねえところもあるが、カミンスキーとの旅でだんだん心を開いていくゼバスティアンを嫌味無く演じている。

 なお、この映画はベクデル・テストはたぶんパスしないと思う。途中のパーティの場面以外では女性が複数画面に登場するところがない。