あの男、もっと太っていればいいのだが~『スクールオブロック』

 ブリリアホールでミュージカル版『スクールオブロック』を見てきた。話はだいたい映画と同じだが、アンドルー・ロイド・ウェバーが音楽をつけたミュージカルになっている。

 正直なところけっこう好みではなかった。まず、映画版で使ったオリジナル曲の"School of Rock"は最後にもちろん登場するのだが、このAC/DCっぽい曲調とアンドルー・ロイド・ウェバーの音楽の雰囲気があんまりあっておらず、もうちょっとこの系統の音楽が得意な作曲家に頼むべきだったのでは…と思った。さらにこういうロックの反抗精神みたいなものをテーマにした作品を保守党貴族院議員だったアンドルー・ロイド・ウェバーや一代貴族のジュリアン・フェロウズが作っているというのはどうなのかねぇ…と思う。もともとの舞台はアメリカなんだし、アメリカ(AC/DCが出たオーストラリアとかでもいいのだが)のもっとロック系のクリエイターがやるべきミュージカルではという気がする。

 あと、かなり気になったのは主人公のデューイ(柿澤勇人)がわりとほっそりしていてイケメンであることだ。映画の『スクール・オブ・ロック』(2003)はデューイ役がジャック・ブラックで、2010年代以降盛んになるポディポジティブのさきがけ…というか、ブラックがけっこう太めだけどカッコよくて、自分が太っていることを全然引け目に感じておらず、太っている人として自信があるというのがポイントだったと思う。だからやっぱり太めの生徒で自信をなくしているトミカ(マリアム・ハッサン)がデューイから元気をもらう場面がぐっとくる。これはロックスターはやせててイケメンじゃないといけないんだみたいな固定観念をブチ壊すものだし、また「君は太ってなんかいないよ!」じゃなくて「太ってて何が悪いの?」という考え方を提示しているところも良かったと思う。しかしながらこの舞台版ではそういうボディポジティブのメッセージがほぼなくなっている。別に柿澤勇人は悪くないのだが、「あの男、もっと太っていればいいのだが」(『ジュリアス・シーザー』第1幕第2場)と思って見てしまった。