無観客上演の撮影としては最も洗練されたプロダクション~カーヴ『サンセット大通り』(配信)

 レスターのカーヴ劇場が有料配信したアンドルー・ロイド・ウェバーのミュージカル『サンセット大通り』を見た。こちらは既に配信して大変好評だったものである。一応、日本版は一度去年ライヴで(劇場が閉まる直前に)見たことがある。

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 おそらく無観客上演の撮影としては最高レベルに洗練された技術で作られており、劇場を縦横無尽に使った演出と撮影で全く違和感がない。何しろ映画の世界が舞台なので、わりとシンプルな平たい舞台につながる劇場の座席をまるで映画館のように使って、ハリウッドで生きる登場人物の日常生活やヒロインであるノーマ(リア・ジョーンズ)の幻想と虚栄にまみれたお屋敷暮らしに上手に組み込んでいる。最後のクロースアップの場面などは、まるでノーマが思い浮かべている映画の観客が本当に空っぽの座席として存在しているみたいで、とても皮肉であり、かつ効果的だ。

 映画がテーマということで、撮影係やカメラが画面に映り込んでしまっても余計面白くなるみたいな演出にしているところも良い。撮り方がしっかりしているところはイヴォ・ヴァン・ホーヴェのKings of Warや『イヴの総て』などを思わせる。画面をいくつも分割したり、プロジェクションみたいなのを画面に重ねるなど、撮影した映像を加工しているところもあるのだが、このあたりもあまり気取った感じがなく、オシャレに仕上げている。

 役者陣も申し分ない演技である。以前に安蘭けいのノーマを見た時はちょっとノーマに現役感がありすぎてハリウッドの中年女優差別みたいなものが前面に出ていたような気がするのだが、こちらのリア・ジョーンズ演じるノーマは現役感のない、本当に時代に取り残された女性である。ジョー・ギリス(ダニー・マック)はかなり私がイメージするジョーにピッタリのシニカルな色男風で、歌も上手だしとても良かった。