繊細なマーゴと精神不安定なイヴ~NTライヴ『イヴの総て』

 NTライヴで『イヴの総て』を見た。言わずと知れた1950年の名作映画の舞台化で、イヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出、マーゴ役がジリアン・アンダーソン、イヴ役がリリー・ジェームズである。ブロードウェイを舞台に、大女優マーゴに取り入った新人イヴが周囲の人々を騙して成功していく様子を描いた作品である。

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 付録のインタビューによると、ヴァン・ホーヴェはとにかくこの映画の脚本が気に入っているそうで、ジョセフ・L・マンキウィッツの映画台本をほとんどそのまんま舞台台本に使っている。普通、映画を舞台化する時は脚本を多少いじって演出家や他の劇作家などのクレジットが入ることが多いと思うのだが、たしかかなり映画に忠実な舞台化だ。『イヴの総て』のストーリーは、ヴァン・ホーヴェが前に演出した『ヘッダ・ガーブレル』と少し似たところがあるので、そのせいもあってやりやすかったのかもしれない。

 一方でヴィジュアルスタイルと役者の個性が全然違うので、ほぼ同じ展開なのに映画の『イヴの総て』とかなり違う話に見える。スクリーンをたくさん使い、舞台上では行われていないアクションを見せたり、クローズアップを使ったり、鏡をのぞきこむ場面では顔が老いていく様子を見せるなどといった凝った工夫がある。キャラクターの違いがかなり大きく、全体的に50年の映画版よりも出てくる女性たちが繊細だ。映画版のベティ・デイヴィスのマーゴはいかにも堂々として愛嬌が一切ないのにカリスマと魅力があるというキャラクターだったのだが、一方で舞台版のジリアン・アンダーソンのマーゴは以前アンダーソンが演じた『欲望という名の電車』のブランチにむしろ似ていて、脆い心を持った女性に見える。一方、イヴについても、映画版のアン・バクスターは腹黒くて冷静そうだったのだが、舞台版のリリー・ジェームズはかなり精神不安定で、少なくとも最初のほうはマーゴやカレンの愛を本気で求めているように見える(それなのに成功のためには悪いことを何でもしてしまうというあたりが深刻だ)。このへんがちょっと現代的なのだろうな…と思う。