ボウイのプロジェクト、でも予想以上にウォルシュでイヴォ~『ラザルス』(配信)

 デヴィッド・ボウイの最晩年のプロジェクトであるミュージカル『ラザルス』を有料配信で見た。ボウイのお誕生日から命日まで3日間、配信されるものである。2016年のロンドン公演の収録で、2018年5月にニューヨークで上映されたらしい。

lazarusmusical.com

 基本的にはボウイが映画版の主演をつとめた小説『地球に落ちて来た男』に基づいており、酒浸りで故郷に帰りたいと思っている人間型異星人ニュートンの葛藤を描いている。台本はボウイとアイルランドの劇作家エンダ・ウォルシュが作っており、演出はイヴォ・ヴァン・ホーヴェである。楽曲は今までボウイが作った曲が多いが、このために書き下ろした曲も数曲ある。

 ボウイのプロジェクトなのだが、思ったよりもずいぶんとエンダ・ウォルシュでかつイヴォ・ヴァン・ホーヴェな作品である。悪夢みたいな台本は私が考える「わかりづらい時のエンダ・ウォルシュ」(「虫が悪い時のエンダ・ウォルシュ」と言ったほうがいいかも)そのものだ。箱みたいで後ろにバンドがいるセットはめちゃめちゃイヴォ好みだ。このまま『ヘッダ・ガーブレル』ができそうな雰囲気のセットである。

 で、正直、かなりアクの強いこの3人のヴィジョンがわりと衝突してうまく混ざっていないような印象も受けた。ボウイの楽曲はどれも聞くだけで心が三密になりそうなくらい高密度だし、さらにエンダ・ウォルシュ的な悪夢とイヴォ・ヴァン・ホーヴェ風のシャープで急に暴力的になる演出が一緒に襲ってくるので、迫力は凄いのだが見ていてけっこう処理しづらい。これは全くの私の印象なのであまり自信はないのだが、『地球に落ちて来た男』について、ボウイはオスカー・ワイルドの「カンタヴィルの幽霊」(成仏できない幽霊とそれを助けようとする可憐な少女の話)みたいな話、ウォルシュは『オデュッセイア』(故郷に帰ろうとする英雄の話。ウォルシュは『ペネロピ』っていう『オデュッセイア』の翻案を書いたことがある)みたいな話、イヴォ・ヴァン・ホーヴェは『ヘッダ・ガーブレル』(現状に満足できない女の悲劇)みたいな話だと思っているのじゃないか…という気がした。なんかこういういろんなバックグラウンドを持ついろんなアーティストのヴィジョンがひとつの作品に詰め込まれているので、盛りすぎのような印象を受ける。

 ただ、『地球に落ちて来た男』はアメリカが舞台なのだが、ボウイ、ウォルシュ、イヴォ・ヴァン・ホーヴェは3人ともそれぞれ極めてヨーロッパ的な芸術家だと思う。見ていて、これってアメリカにヨーロッパ人が住んだ時に感じる居心地の悪さみたいなものを反映した舞台なのでは…という気がした。主人公ニュートンの「自分の居場所はここじゃない、でも出られない」みたいな状態については一貫性を持って提示されていたように思う。