音楽はいいが、少し演出が地味かも~コーミッシュ・オーパー・ベルリン『セメレ』(配信)

 コーミッシュ・オーパー・ベルリンによるヘンデル『セメレ』の上演を配信で見た。コンラート・ユングヘーネル指揮、バリー・コスキ演出で、2018年の上演を撮影したものらしい。台本は英語で、有名な王政復古期の劇作家であるウィリアム・コングリーヴによるものをもとにしているらしい。

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 タイトルロールのセメレ(ニコール・シュヴァリエ)は婚約者アタマス(エリック・ジュレナス)との結婚式を控えているが、神であるジュピター(アラン・クレイトン)と相思相愛になってしまい、結婚について気が進まなくなっている。ジュピターはセメレをさらって隠れ家にかくまうが、それに気付いたジュピターの正妻ジュノー(エズギ・クトゥル)はセメレを欺して、死すべき人間の運命を脱するためにジュピターに人の姿ではなく神としての本来の姿で現れるよう頼めとそそのかす。雷鳴の神であるジュピターの真の姿を見たセメレは焼死して灰になってしまう。セメレの妹で以前からアタマスに恋していたアイノー(カタリナ・ブラディッチ)がアタマスと結婚することになる。

 ユーモアと情感溢れる恋愛喜劇が得意だったコングリーヴ原作というだけあって台本がしっかりしている。セメレがジュノーに欺された理由として、もともとセメレが神であるジュピターが人間である自分を愛してくれることに対して不安を抱いており、対等な立場で長く愛し合いたいと思っていることが中盤で示されている。コミカルなところがある一方で激しすぎる愛の妄執がうまく描かれており、その物語によくあうよう要所要所でぴったりの音楽がつけられている。ただ、セメレがジュピターに会って雷鳴をくらうところを直接見せる場面がなく、これは技術的な問題でなくしたのだろうか…と思った。

 そういうわけで内容自体は面白く見ることができたのだが、現代のセットと衣装を使った演出はあんまり利いているのかよくわからない…というか、右側の暖炉を要所要所で用いるところ以外は全体的に地味な印象を受けた。中盤くらいまではジュピターが結婚式を襲撃するところでセメレが暖炉に吸い込まれ、みんなが花嫁のヴェールを引っ張って助けようとするなど、面白おかしく見栄えのする演出もあるのだが、終盤があまりぱっとしない。灰とか火がモチーフの演出で、初っ端からセメレが灰から起き上がってくるところから始まるのだが、これなどはちょっと気取っている感じで、やらなくてもよかったのでは…と思った。終わり方もえらい陰鬱で、全身やけどのセメレが暖炉に座っている状態で歌が続くだけで、あまり見栄えがしない。