演出とキャラクターの食い合わせが…『マクベス』

 Dock Xでサイモン・ゴドウィン『マクベス』を見てきた。

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 ウォーターフロントの倉庫みたいな場所での上演で、お客は舞台裏から兵士(スタッフが扮しているわけだが)が見張っている通路を通って客席に入るという変わった作りの劇場である。冷たい灰色の壁が全体的に寒々しい雰囲気を作るのに貢献している。衣装などは現代的で、雰囲気は完全に今の内戦だ。

 サイモン・ゴドウィンらしく現代政治を思わせるシャープな演出が多く、わりとセリフはカットしていてスピード感が重視されていると思う。魔女たちは戦争の被害を受けた一般庶民というような印象だ。マクベス夫人(インディラ・ヴァルマ)にもどうも魔女たちが見えているのでは…と思われる演出もあり、これはあまり見かけない演出である気がする。

 ただ、演出にこういう面白いところはけっこうあるのだが、キャラクター造形がどうも演出にあっていない気がした。マクベスレイフ・ファインズ)はわりともっさりした大人しそうな中年男で、とくに序盤のほうは穏やかそうなおじさまである。ところがマクベス夫人はたぶん夫より10歳くらい年下で、おそらく夫より階級が高い生まれなのでは…という感じがするゴージャスな妻だ。この戦争の惨禍から離れて屋敷にいるポッシュで内にこもった感じのマクベス夫人と、戦争の暴力に直接さらされている非常に庶民的な魔女たちとの間にはっきりした対照があるのはいいのだが、一方で夫婦の関係がもとからうまくいっていないように見える。マクベス夫人のほうがずっと夫よりも計略が得意そうで、再会した時も夫のほうは喜んでいるのにマクベス夫人のほうはしれっとした感じで、あんまり深く愛し合っていない。全体的に、年上のぱっとしない夫が、年下のゴージャスな妻に対して引け目を感じていて、そのせいで妻の言いなりに…みたいな話に見え、まあそういう演出はあり得るだろうが、この方向性だと『マクベス』にしてはちょっとスケール感の小さい家庭悲劇になってしまうような気がするので、政治劇っぽい演出との食い合わせがよいと思えず、あまりいいと思えなかった。