現代的に換骨奪胎されたゴーリキー~アビー座『太陽の子』(Children of the Sun)

 アビー座で『太陽の子』(Children of the Sun)を見てきた。ゴーリキーの戯曲をヒラリー・ファニンが翻案したもので、リン・パーカー演出、ラフ・マジック劇団による上演である。そもそも私はゴーリキーの芝居は『どん底』以外見たことも読んだこともないと思うので、全く予備知識のない状態で見た。 

www.youtube.com

 第一幕はまるでチェーホフみたいなロシアの富裕層の没落ものである。三層になったセットで、それぞれの層は棚みたいになっており、いろいろ日常生活で使うものが突っ込まれている。序盤はかなりいろいろ椅子などの家具があり、そこで全然機能していない上流階級の家族のいざこざが描かれる。一番上の左に穴…というかワームホール的なものがあり、第二幕ではこの三層のセットからロシアの富裕層の居間が取っ払われて抽象的なディストピア空間のようなものが出現し、そこで著者のゴーリキー本人まで登場していろいろなモノローグが語られる。

 第一幕は主人公のプロタソフ(スチュアート・グレアム)に叶わぬ思いを寄せるリッチな寡婦ラニア(フィオナ・ベル)がかなりエネルギッシュで面白く、真面目なシーンでもひとりだけツッコミを入れて笑わせてくれる。メラニアは後半でも違う設定でプロタソフへの想いを寄せ続けている。一方で家庭内暴力のくだりはかなり怖い…というかけっこうイヤな感じがするし、終盤のサッカークラブを買うモノローグははっきりとロマン・アブラモヴィッチに言及していたりして、不穏なところも多い。あまりわかりやすいとは言えないと思うが、非常に野心的なプロダクションだと思った。