『アナと雪の女王2』メモ(ネタバレあり)

 『アナと雪の女王2』を見てきたのだが、これはどこかの媒体に長いレビューを書くかもしれないので、とりあえず気付いた点のメモだけ置いておこうかと思う。

・秋の葉などを基調とした赤っぽい色調で、前作とは違う色合いを見せようとしている。

ロマン主義の絵画にすごく影響を受けている。たまにフリードリッヒみたいである。

・私が前作について批評で指摘したようなことがすごく意識されていて驚いた。

・エルサにガールフレンドはいない。アセクシュアルである。

・台本は終盤、回収しきれていない感がある。

・エルサの終盤の衣装がフィギュアスケートかサーフィンのコスチュームみたいで体にピッタリ張り付いており、かなりフェティッシュ化されているように思った。氷を操る力とともにあるエルサのアイデンティティを象徴していると思われるのだが、一方でディズニーのヒロインとしては限界と言えるくらい尖った衣類なのではという気がする。アセクシュアルでフェティッシュファッションに身を包んでいるというところは面白いヒロインだ。

・エルサはエモなんじゃないか。パラモアのヘイリーとかにちょっと雰囲気が似ている。

四大元素が大きな役割を果たしており、その点ではスパイダーマン:ファー・フロム・ホームに似ている。フェイクニュースのテーマ系が入っているところも似ているかもしれない。

・オラフはいつのまにホメオパシーにはまってしまったの…(これはものすごく重要なモチーフだと思われる。)

・スピリチュアルでストイックなサーファーとしてのエルサ。エルサが波に向き合う場面はディック・デイルが流れていてもおかしくないレベルである(エルサがディック・デイルならアナはビーチボーイズだな)。

・エルサのリプリー的筋肉美女化。新体操かフィギュアスケートみたいな場面がある上、ラストの見せ場は『エイリアン2』のパワーローダーに乗ったリプリーが出てくる場面くらいのインパクトがある。

・そうは言っても実は一番アナが偉大な力を持っているのではないか。愛は尊い

・ヒッピーコミューンに入ることが自己実現の解決法だという点で、この映画は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の対極にある作品なのかもしれない。

・森の中で突然80年代のアイドルか売れ筋バンドみたいになるクリストフ。お前はヒューマン・リーグシカゴか?

・主題歌がパニック・アット・ザ・ディスコとウィーザー。男性の声になっていることに注目。

・映画の前の予告でグッズを出すのはやめよう。新キャラ(すっごく可愛い)がネタバレしてる。

・類似性を指摘できる作品…『クリスチナ女王』、『シュガー・ラッシュ:オンライン』、『ゲーム・オブ・スローンズ』。技術的には『ナルニア国物語/第1章: ライオンと魔女』とか?

アルクの英語ミニコラムに『リトル・ダンサー』のことを書きました

 アルクでやっているGOTCHA!の英語学習ミニコラム、今回は『リトル・ダンサー』に出てくる表現を扱いました。台詞は方言以外はそこまで難解ではないのですが、リー・ホールが刊行台本に序文をつけてて、そこに文法も難しいし背景を知らないと読めなそうな文があります。

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高評価なのはわかるのだが、あまり好みではなかった~『第三夫人と髪飾り』

 『第三夫人と髪飾り』を見てきた。ヴェトナムの女性監督アッシュ・メイフェアが自分の曾祖母の話をヒントに作った映画である。

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 舞台は19世紀の北ヴェトナムである。ヒロインのメイ(グエン・フオン・チャー・ミー)は14歳で大きな絹業者の第三夫人として嫁ぐことになる。第一夫人のハ(トラン・ヌー・イエン・ケー)には息子が、第二夫人のスアン(マイ・トゥー・フオン)には娘がいる。メイはすぐ妊娠するが…

 

 ロケをふんだんに使い、自然の映像を織り込んでとにかく綺麗に撮った作品だ。一夫多妻制の中で暮らす女たちが直面する不条理を丁寧に描いており(ベクデル・テストは妻同士の会話などでパスする)、完成度としては高い…と思うのだがおそらく個人的な趣味の問題で私は全く好きになれなかった。

 まず、綺麗さ重視であんまりカットがつながっていないみたいなところがあるのが良くない。顕著なのが冒頭のメイの結婚式の場面で、カットが変わるとメイが来ているショールのかぶり方が微妙に違う。やたらとゆっくりした映画であるわりには、なめらかな時の経過とか登場人物の自然な動きを意識したスムーズな編集になっていないところがある。

 それから、これだけの大家族を描いているのに冒頭部分で誰が誰だとかいう紹介がほとんどないまま始まり、結局ひとりひとりの女たちがどこから来たのか、どういう経緯でこの一家の妻になったのか、といった背景が全く描かれないのも好みではなかった。最後まで、なんでメイが14歳で第三夫人になったのかは全くわからないのである。たぶん、わざと背景を捨象してヒロインの経験を直接的かつゆっくり描こうとしたのだろうが、個人的にはこういう背景描写に欠けた歴史ものはあまり好きではない。

 それから、女性たちの苦労がわりとフェティッシュ化というか、エロティックに美化されているようなところもあんまり好きではなかった。14歳のメイが初夜を迎える場面で、メイは後ですごく痛かったと言っているのだが、ここが妙にエロティックに表現されている。初夜のセックスの場面がカイコが這い回る場面に変わるという編集になっていて、このカイコは折々で出てきてだんだん繭になっていくのだが、このカイコの描写が入るせいで、メイは初夜を経験することでエロティックに成長した、みたいな印象を与える。ここだけならまあいいのだが、全体的にこういうなんでもエロティックに魅せるところが多く、言っては悪いがいかにも西洋の映画祭でウケそうな描き方に思えた。東洋の女性の苦労を美しくエロティックに、というのは、まあそれは西洋の批評家にはウケるだろう。私はあんまり好きでは無いが。

 全体的に、別につまらないとか出来が悪いとかではないのだが、あまり私の好みではなかった。同じような題材なら、中国の一夫多妻制を描いたチャン・イーモウの『紅夢』のほうがずっと面白いと思う。

 

みんなのニューヨーク公共図書館~『ジョン・ウィック:パラベラム』(ネタバレあり)

 『ジョン・ウィック:パラベラム』を見た。

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 前作終了直後から始まる作品で、さらにちゃんと終わってない…というか、明らかに4作目がないとオチがつかないだろうというところで終わる。前作の最後で、全殺し屋コミュニティから狙われることになったジョン・ウィック(キアヌ・リーヴズ)が、自分と愛犬の安全のため体力と知恵の限りを尽くして戦う様子を描いた作品である。

 

 ずーっと殺し屋同士が戦っているだけの話ではあるのだが、場所や見せ方を変えているためあまり単調にはならず、ヴィジュアル的な工夫がある。とりあえず全世界から狙われているため、最初はジョン・ウィックがひたすらニューヨークでどんどん襲ってくる相手から逃げたり戦ったりする様子を描くのだが、そろそろ飽きてくるか…と思ったところでジョン・ウィックがモロッコに逃亡し、カサブランカのコンチネンタルホテルで支配人をやっている昔の殺し屋仲間ソフィア(ハリ・ベリー)に助けを求める。ここではソフィアの愛犬2頭が大活躍する犬がかり…じゃなかった大がかりなアクションがあり、さらにジョン・ウィックは砂漠をさまよった後にニューヨークに帰ってきてコンチネンタルホテルで籠城戦を…という展開になる。

 

 相変わらずちょっとファンタジーっぽい世界観をしっかり作り上げていて独特の雰囲気があり、その中でいかにも孤独そうなジョン・ウィックの表情と凄まじい殺し屋ぶりのギャップが引き立つ作品である。脇役陣も豪華で、前作から出てくるローレンス・フィッシュバーンのようなおなじみのキャラから新キャラまで、みんな楽しそうだ。とりあえずこの作品では犬をいじめる奴は巨悪だということに決まっており、犬好き殺し屋として初登場するソフィアはかなり良いキャラだ(残念ながらベクデル・テストはパスしないが)。

 

 ファンタジーっぽいのにニューヨークの実際にある建物を活用しているところも面白く、ニューヨーク公共図書館が序盤で大きく取り上げられている。ニューヨーク公共図書館の本館は街のランドマークとして市民に親しまれている場所なのだが、全ての市民に行き届いたサービスを行うことを目標としている。びしょ濡れになったジョン・ウィックが入って来ても文句ひとつ言わず、リーディングルームカウンターで利用者サービスを提供してくれるあたりはさすがである(私もあの閲覧室に1回だけ行ったことある)。しかしながら殺し屋コミュニティのほうはあんまり図書館を尊重しておらず、図書館内でジョン・ウィックに襲いかかる不届き者がいるあたりは全く見ていて憤懣やるかたないところだ(???)。というのは冗談としても、こういうところでお話を現実のニューヨークとしっかりつなげるあたりの演出は面白い。たぶんニューヨーク市民にとってはご当地映画として大変楽しいところなのだろうと思う。

 

 外国語指導がいい加減すぎるなどいくつかの欠点はあるものの(これは1作目のロシア語からそうだったらしいのだが、今作の日本語の台詞もけっこうひどい)、作品じたいは面白かったのだが、日本語字幕でちょっと問題があると思えるところがあった。主席連合から派遣された裁定人という役柄が今作では大きな役割を果たす。この裁定人、見たところ女性なのだがかなり中性的な服装で、あらたまった感じの硬い英語を話す。それなのになぜか日本語字幕が女言葉になっており、聞いた感じと字幕のイメージの乖離が甚だしい。調べてみたところ、そもそも裁定人を演じているエイジア・ケイト・ディロンはノンバイナリの役者で、この裁定人の役柄についてもノンバイナリという設定らしい。こういう設定がわかっていればもちろん女言葉にはしないと思うのだが、別に字幕作成段階でそういう話を聞いていなくても、これだけ「当局から来ました」風のキャラクターなのに、柔らかく聞こえがちな女言葉で字幕を作るのはキャラ設定上不適切だと思わなかったのだろうか…

学校演劇をする予算すらもらえない演劇好き高校生たちの奮闘を描いた青春もの~『マイ・ビューティフル・デイズ』(ネタバレあり)

 『マイ・ビューティフル・デイズ』を見てきた。カリフォルニアの高校で演劇をしている生徒たちと教員を描いた青春ものである。

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 主人公であるスティーヴンズ先生(リリー・レーブ)は、独白コンテストに出場する生徒たちを車で引率することになる。メンバーは優等生で仕切りが上手なマーゴ(リリ・ラインハート )、才能豊かだが精神不安定で行動障害の薬をのんでいるビリー(ティモシー・シャラメ)、ゲイで感じの良いサム(アンソニー・キンタル)の3人である。それぞれ個性的な生徒たちだが、ビリーは所謂スクールボーイクラッシュでスティーヴンズ先生に夢中である。若くて不慣れなところもあるスティーヴンズ先生のもとで、はたしてコンテストは無事に終わるのか…

 

 これ、私は勘違いしていて高校演劇部の話だと思って見に行ったのだが、演劇部どころか、芸術予算がカットされたせいで学校演劇ができなくなり、演劇が好きな生徒は個別で独白コンテストに出るしかないという切羽詰まった高校の話である。最初はわりと楽しくコンテストに向かうのだが、途中で実は学校から全く遠征費用が出ていなかったということがわかるというシビアな展開になる。この崖っぷち状況をスポ根ふうにならずにさらっと流して淡々と描いているところが面白い。それぞれの生徒たちも、演劇が好きではあるのだがそれだけに打ち込んで…というわけではなく、他に恋愛やらなんやらもっといろいろ気になることがあるという描き方で、根底に舞台好きがありつつも熱血部活映画になっていないところがかえって私としては面白かった。なお、私は高校で部活をやってなかったのだが(大学でもサークルはやってない)、この映画に出てくる生徒たちくらいのコミットメント感で図書委員をやっており、大会に行くときに予算が出ないかもとかいうことが問題になって焦ったことがあるので、なかなか途中の展開が他人事と思えなかった。

 

 基本的にはスティーヴンズ先生が主人公で、いろいろ人生のトラブルを抱えつつも、自分に夢中のビリーに対して大人かつ教員として非常に真面目に向き合い、大人は子供に頼ってはいけない、子供が大人に頼るものだということをきちんと示そうとする様子を丁寧に描いている。生徒3人もいろいろ重要な見せ場がある。マーゴはコンテストの予選で『欲望という名の電車』のブランチの台詞を言うことになっているのだが、最初の数行で頭が真っ白になって全部台詞が吹っ飛んでしまうという悪夢みたいな状況が訪れる(ここが実にリアルな感じで描かれている)。なお、ベクデル・テストはマーゴと先生の会話でパスする。ティモシー・シャラメはさすがに凄くて(『君の名前で僕を呼んで』の前の出演作らしい)、ビリーが『セールスマンの死』の独白をするところは本当に素晴らしいと思った(あれで2位って、1位はいったい…)。ひとつ不満だったのはサムがコンテストで独白する場面がなかったことで、サムについてはもっと時間を割いて描いてもよいのにと思った。

TEDxOtemachiの映像が公開されました

 私が登壇したTEDxOtemachiの映像が公開されました。"Negotiating the Roles of Citizen, Spectator, and Consumer"というタイトルで、全部英語です。ここで話した「良い市民、良い観客、良い消費者」の話をもうちょっと詳しくしたもので、レーナード・スキナードとかシャトーカとかの話をしてます。

Sae Kitamura: Negotiating the Roles of Citizen, Spectator, and Consumer | TED Talk

NTLive語る会vol. 9―『イヴの総て』

 「NTLive語る会vol. 9―『イヴの総て』」、無事終了しました。大盛況で質問もたくさん出て盛り上がりました。お越し下さった方々、どうもありがとうございます。

www.ntlive.jp