6月末に新刊が出ます

 6月末に新刊が出る予定です。『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード ジェンダーフェミニズム批評入門』というタイトルで、これまでにいろいろな雑誌などに書いたものを集めた本になる予定です。

 

 

あまりこなれていないと思う~スペースZERO『十二夜』

 スペースZEROでTYプロモーション『十二夜』を見た。横内正演出によるものである。

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 正直、全体的にあんまりパッとしない上演だったように思う。まずテキレジにちょっと疑問があり、最初の「音楽が恋の糧なら…」の有名なセリフがある場面がまるごとカットされている(セリフの一部は後の場面に移されている)。登場人物の入退場がちょっとごたごたしている…というか、舞台を広く使うためなのか、「そこ退場したらおかしいのでは?」と思うような早いタイミングで登場人物が退場してしまうところがあり、とくに終盤では「さっきその話が出てくる前に退場したのに、なんでこの登場人物は今舞台で起こったことを知ってるんだ?」というような場面があったりする。また、笑えるところが『十二夜』にしては少なかった気がする。キャスティングについても、ヴァイオラ(髙﨑俊吾)とオリヴィア(堀田怜央)が男優なのにオールメールにしないでマライア(一色采子)だけ女優にする意図がよくわからなかった。マルヴォーリオ(加納幸和)いじめがわりとマイルドなところは特徴的だし、セバスチャン(松田岳)がけっこう色男風なわりにコミカルなところは良かったと思うのだが、あまりこなれていない感じのプロダクションだった。

かなりちゃんとした『ロミオとジュリエット』~『浪花節シェイクスピア 富美男と夕莉子』

 紀伊國屋ホールで『浪花節シェイクスピア 富美男と夕莉子』を見てきた。末満健一脚本・演出による大阪弁の『ロミオとジュリエット』である。

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 1950年代末、大阪の南あたりにあるらしい浪花坂という街が舞台である。ヤクザの紋田木一門の跡取り息子である富美男(ロミオにあたる役、浜中文一)と、九羽平家の娘である夕莉子(ジュリエットにあたる役、桜井日奈子)の悲恋を描いている。ただし話の順番は富美男と夕莉子が亡くなったところから始まり、残された人々が2人の交換日記をたよりに恋の経緯を再構成する。

 セットは後ろに花札の絵柄のついたてが立っており、このついたてをいろんなものに見立てるようになっている。黒子みたいな感じでキツネのお面(夏祭りのお面の話が出てきたり、キツネにつままれたようだというようなセリフもあるので、そのへんとつながっていると思われる)をかぶった人たちが出てきて、セットの調整から「その他大勢」的な役までいろいろなことをこなしている。特殊効果のところでは和傘を上手に使っており、暴力シーンでの流血から花火まで、いろんな場面で和傘が登場する。舞台や衣装はわりと赤っぽいしっかりした色みを中心にまとめている。

 日記がたよりの再構成という内容なので順番が時系列通りになっていないのだが、それでもちゃんと話がわかるように台本を作っている。また、原作のセリフを昭和設定にしつつもかなり生かしてリズムのある関西弁にしており、テキレジはたいへん効果的である。たまに冗談などがコテコテすぎてここまでやらなくてもいいのでは…と思えるところもあるのだが、この手の翻案としては台本は極めてしっかりしているほうだ。

 富美男も夕莉子もあんまり理想化されておらず、どっちも恋で完全にアホになった若者たちである。とくに富美男はヴェローナの貴公子とはほど遠いヤクザの息子でけんかっ早いのだが、一方で女の子の前では形無しといった感じで、ある種の純朴さがある青年だ。原作ではジュリエットがロミオに結婚を申し込むのだが、このプロダクションでは富美男が突然夕莉子に結婚を申し込むという展開になっており、たしかに昭和の設定だとこっちのほうがまあ自然か…と思った。近世ヨーロッパだと女性から結婚を申し込むのは大胆で決然とした性格を示すものだが、昭和の日本という設定だと一目惚れでいきなり結婚を申し込むとなんかアホっぽく見えなくもないので、恋でアホになっているとはいえ多少はいろいろ考えている感じがする夕莉子よりも、ある点では真面目なところもあるのだが完全に舞い上がってしまっている富美男が結婚したがるほうが性格にあっているように見える。

 役者のほとんどは大阪近辺の出身だそうだが、夕莉子役の桜井日奈子は岡山出身で大阪弁ネイティヴではないそうで、それでこれだけアクセントがちゃんとできるのはたいしたものだと思った。日本ではイギリスなんかに比べるとあんまりアクセントを自在に変えられる俳優が少なく、住んでいる地域の方言以外で上演される芝居を見られる機会も少ないので、こういうのはとても貴重な機会である。先日の男肉 du Soleilに続いて関西ノリのシェイクスピアを立て続けに見ることができ、嬉しいことだ。

志は高いが、ちょっと教育番組っぽい~『彼女たちの断片』(配信)

 配信で『彼女たちの断片』を見た。石原燃作、小森明子演出のThe東京演劇アンサンブルによる芝居である。中絶が主題で、オールフィメールの上演である。

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 大学生の多部真紀(仙石貴久江)の思わぬ妊娠と中絶薬による中絶をめぐって、世代や立場の違う複数の女たちが繰り広げる対話を描いた作品である。真紀は同級生の友達みちる(永野愛理)に相談し、みちるが海外から中絶薬を取り寄せることにする。しかしながら2人とも学生でクレジットカードを持っていなかったので、みちるが母親である天野(原口久美子)の仕事仲間である年上の涼(山﨑智子)に相談する。薬を取り寄せるが、真紀は自宅では2回に分けてのんで出血のある中絶薬を使うことができず、涼が天野の共同経営者である晶(洪美玉)に相談する。真紀は晶とその母である葉子(志賀澤子)の家で中絶薬を使うことにする。ところが、葉子の友達のまゆみ(奈須弘子)が訪ねてきて、またみちるの母の天野があやしんで晶の家にやってきたので、女たちは全員で真紀を支援しながら妊娠、中絶について考えることになる。

 最初に主な登場人物が紹介され、設定がわかるようになっている。序盤は真紀が保護者に何も言わずに中絶薬で中絶することに天野が疑問を呈し、それに対していろいろ他の女たちが中絶について現行法での位置づけとか、日本で中絶のあり方が遅れていることとか、フェミニズムとかミソジニーとか、いろいろな話をするという展開である。ここがなんか教育番組みたい…というか、科学などを扱った芝居(『驚愕の谷』とか)にありがちな、お勉強の内容を紹介します、みたいな感じになっているのがあまり良くない。

 一方、終盤はそれぞれの女性たちが個人的な体験を打ち明けあい、それを通して連帯するというような展開になっており、ここはとても良いのではないかと思った。ただ、これについても真紀の家庭環境とかをもうちょっと掘り下げてほしい…というか、序盤で真紀が自宅ではプライバシーが無いので中絶ができないということをかなりさらっと説明しており、このへんの問題をもっと描くと良いのではないかと思った。たぶん構成としては、真紀をダシにして他の人が語る…というよりも、オムニバスみたいな形式にしたほうがまとまりがよくなるのかもしれない。

高知工科大学でオンライン講義をします

 高知工科大学学群コロキウム「理工学のフロンティア」にて、7/12にオンライン講義をすることになりました。フェミニスト批評について話す予定です。

www.scsci.kochi-tech.ac.jp

『白水社の本棚』春号がウェブ公開されました

 『白水社の本棚』春号がウェブ公開されました。前の記事で触れたように、ウィキペディアのことを書いています。

https://www.hakusuisha.co.jp/files/hondana/hondana2022_02.pdf