ダークでエログロ気味なラウンドハウス座RSC『お気に召すまま』

 ラウンドハウス座でRSCの『お気に召すまま』を見てきた。悪くなかったが、かなりダークな感じでちょっと好みが分かれるかな…非常にエログロを強調した舞台で、楽しくないことはないが『お気に召すまま』とは思えないほどブラックコメディ的。

 まず宮廷とアーデンの森の描き分けが結構シビアで、宮廷は暴君フレデリックの意に従い格式を維持する以外生き抜く方法のない独裁政権。みんな同じような服を着て同じような身のこなしをしないとオーランドのように居場所がなくなってしまう。そんな宮廷はたいへん血なまぐさいところで、オーランドがチャールズとレスリングをするところはなんか壁に相手の頭をガンガンぶつけて血が飛び散ったり、ヤバかった…のだが、そのわりに無駄な蹴り技が多くてあまり見栄えはしなかったな(あれならカンフーかムエタイにでもしたほうが遠くからは見栄えがよいのではと思ったのだが)。
 一方、アーデンの森は多様性の場である。住んでるのはヘンなヤツばっかりだ。ジェイクイズはいつもギターを抱えて珍妙な歌を歌っているおっさんで、スナフキンとトウのたったヒッピーと皮肉屋を足して三つに割ったような感じ(今日見たジェイクイズは本当に面白くて、客にものすごくウケてたな)。森にかくまってもらうオーランドも、登場した時はまるで粗暴なのにどういうわけだか人好きだけはするヤンキーにいちゃん(一種のストックキャラクター)だったのだが、マジメ人間なのにみんなに好かれてない兄貴オリヴァーに追い出され、森に入るとちょっと周りの雰囲気に感化されてバンド青年(?)になってしまい、暇さえあればギター片手に下手な恋歌を歌うようになる。道化のタッチストンはなんか非常に子供っぽいのにすごく頭がいいというか、まあある種の天才…みたいな感じで、異常なまでに失礼で不作法である(それでも客は大喜び)。女性陣もヘンなのばっかりで、羊飼い娘のフィービーは髪の毛を角ヘア(触覚ヘア?)にしているし、ヒロインのロザリンドはご存じのとおり目下男装中。こんな変人ばかりでもみんな楽しく暮らしている。とうとうマジメ人間のオリヴァーまで雰囲気にあてられてしまい、弟を殺すといきまいて森にやって来たのにシーリアにすっかりのぼせてしまう。オーランドに「俺あの子と結婚して羊飼いになるんだ」とかものすごく嬉しそうに言うあたりは、過労で人生に疲れた人が突然ロハスにハマったような感じでえらく説得力があった。

 なお、休憩時間に舞台で羊飼いがウサギかなんかをさばくパフォーマンス(お手洗いに行っていて全部は見れなかったでよくわからないのだが)をしたり、劇中でも結構血が飛び散ったり男女ともに服がはだけたりエログロ描写がどぎつい。最後のジェイクイズが森にとどまると行って宮廷を見捨てるあたりはなんかなかなか複雑で悲しかった。『お気に召すまま』は非常に楽しい喜劇であるはずなのだが、笑いは多いけど愉快って感じではなかったかな…見る価値はもちろんあると思うが、後味はそんなに良くないかも。

 あと、エピローグは歌になっていたのだが、「もしも私が女なら…」(シェイクスピアの時代は女形がこの役を担当していたのでこういう台詞だった)という有名な台詞はカットされてた。やはり女優が言う場合はカットするのか…