何もない空間~スタジオライフ『お気に召すまま』

 中野のウエストエンドスタジオでスタジオライフ『お気に召すまま』を見てきた。倉田淳演出によるオールメールシェイクスピアである。

 全く何もない空間で衣装も普段着、小道具すらほぼ使わないという徹底してシンプルな演出である。オーランドー(鈴木翔音)が空腹で公爵たちから食べ物を奪おうとするところのバスケットや、オーランドーが木にかけようとする詩を書き付けた紙(これはお客さんを木に見立てて渡すようにしている)、オリヴァー(大村浩司)がロザリンド(関戸博一)に渡すハンカチなどは一応出てくるのだが、ロザリンドとシーリア(緒方和也)がアーデンの森に来るところで持っているはずの大荷物などは出てこない。オリヴァーとシーリアがビールを飲むという原作にはない場面でビールの缶が出てきているが、もとの芝居に出てこない小道具はたぶんこれだけでは…と思う。キャストもかなりカットされており、タッチストンとオードリーは出てこない。また、アダム(松本慎也)は老僕ではなく若い従者で、オーランドーに同行しない。

 三方向を客席に囲まれた小さい小屋なのだが、これがかえって功を奏し、ありがちな「若い役者が正面を向いて叫ぶ」演技がほぼなくなっているのが良い。何もないところでみんな歩き回ったり体を動かしたりしながら台詞を言っており、けっこうダイナミックだ。チャールズ(船戸慎士)はちょっとあまりにも動き回っていてやりすぎな気もしたが、ふだんはぶすっとしているのに元気になるとやたらエネルギッシュに動き回るシーリアと、比較的落ち着きがあるのにオーランドーのことを考えるとせかせか動いてしまうロザリンドの対比もしっかりしている。笑えるところもたくさんあるし、タッチストンが出てこないのは残念だが、かなり楽しめる上演だった。