男前のロザリンド、ヒッピーコミューンのアーデンの森〜シアタークリエ『お気に召すまま』

 シアタークリエでマイケル・メイヤー演出『お気に召すまま』を見てきた。

 宮廷の場面から既にロザリンド(柚希礼音)とシーリア(マイコ)が60年代風のすらっとしたミニのワンピースを着ていたのだが、アーデンの森に入るともう全く60年代風の美術である。宮廷の白い柱も背景もサイケデリックに塗りつぶされ、ジェファーソン・エアプレインやジャニス・ジョプリン(ビッグ・ブラザー・アンド・ホールディング・カンパニーも)、ジミヘン、ママス・アンド・パパスなどがかかる。追放された公爵の亡命宮廷はヒッピーコミューンで、アミアンズ(伊礼彼方)はロックスターみたいだし、皆水タバコなんかすって語り合っている。

 このヒッピーコミューンの設定は森の自由な雰囲気を強調できるのでけっこう効いていると思うのだが、もう少し徹底したほうがよかったと思う。例えば公爵(小野武彦)はわりと地味な毛糸のセーターを着ているのだが、他の若い宮廷人が皆サイケなフラワーピープルファッションなんだから、公爵はさらにそれを越えるグルみたいな格好をすべきではと思う。また、森の中の恋愛についても、もう少しセリフをカットしたりしてもいいのですごく自由でセクシーな雰囲気をさらに強調したほうがいいのではと思った。元の設定では森の宮廷でも階級制度や性的な純潔志向がけっこうあるので、そのへんをもう少し崩したほうがこの美術にはあうと思う。一方、オリヴァー(横田栄司)やフレデリック(小野武彦ダブルキャスト)が森に来て改心してしまうのはこのヒッピーコミューンの設定を使ってよく表現されている。フレデリックはなんと森のスピリチュアリズム集団に入ってしまうし、オリヴァーも楽しい少々トンだ雰囲気に感化されてしまうという演出で、この2人が急に悔い改めるところがけっこう説得力をもって提示されている。ジェイクィズ(橋本さとし)が有名な人生の段階の話をするところはいかにも60年代っぽい音楽付きのパフォーマンスになっていて、このあたりの演出もうまい。また、この上演のオーランドーは最初はかなりカリカリした男で兄オリヴァーとひどく険悪にケンカしたりするのだが、その後ロザリンドに恋して少し優しいところを見せるようになり、さらに森に入ってからは自由な雰囲気のせいで恋心を解放しまくってぼーっとなってしまう…というふうにどんどんリラックスしていくようなキャラ付けになっており、このあたりも森の設定がよく機能していた。

 あと、このプロダクションで注目すべきなのは柚希礼音演じるロザリンドが、最初に女性として登場した時から既に物凄く「男前」であるということだと思う。元宝塚の男役だからだろうが、女性の姿の時でも物腰とか台詞回しにいわゆる「女性の男性性」みたいな雰囲気が漂っている。私はオールメールの『お気に召すまま』も二度ほど見たことがあるのだが、それに比べてもこの柚希ロザリンドの理想化された男ぶりはトップレベルだ。冒頭のレスリングの試合なんか、オーランドー(ジュリアン)じゃなくロザリンドが吉田沙保里ばりに戦ってもおかしくないような感じである。ブロンドのショートカットで青いワンピースを着たロザリンドと、ブルネットのロングヘアにピンクのワンピースを着たシーリアが並ぶと、まるでブッチ/フェムのレズビアンパワーカップルみたいである。そしてこのロザリンドは最初っから大変「男前」であるせいで、男装してもあまり印象が変わらない。フリンジのついた60年代ファッションがわりとユニセックスであるということもあり、女の時も男の時もロザリンドはあんまり居心地悪くなさそうな感じで、むしろ生き生き楽しそうだ。これが最後のエピローグで効いてくる。この作品のエピローグは女形の少年が男性客と女性客両方にアピールするというものなのだが、ふだん男役だった女優がこれを言うとまた違った味わいが出てとても面白い。

 全体的にはかなり面白かったのだが、気になるところもある。まず、サイケデリックな設定のせいもあり、本来であれば派手で面白いはずのタッチストンがあまり機能していなかったと思う。これは台詞のカットの仕方とも関係があり、冒頭でタッチストンがレスリングについて皮肉を言う面白おかしいセリフなどがカットされている。全体的にけっこうセリフはカットされていた印象がある。