賢いオーランドー~Kawaiプロジェクト『お気に召すまま』(ネタバレあり)

 シアタートラムでKawaiプロジェクト『お気に召すまま』を見てきた。河合祥一郎新訳、演出のものである。

 視覚的な雰囲気は大変なごやかでのどかな感じで、グローブ座の張り出し舞台みたいな三方を客席に囲まれた舞台があり、床はフェルメールに絵に出てくるような白黒模様になっている。森の場面では上から緑色の木々を思わせる布が吊られ、床には緑の草が置かれるようになる。衣類もあまり現代化はされておらず、どことなくルネサンス風だがわりとシンプルでカラフルだ。

 全体としてはオーソドックスな演出の楽しい恋愛喜劇なのだが、いくつか大きな冒険ポイントがある。ロザリンドの父である前公爵とシーリアの父フレデリックを同じ役者(鳥山昌克)にしたのは面白く、兄弟で顔が似ているのにまったく違う人に見える。タッチストーンとジェイクィズを一人二役にしたのは、この2人がコインの裏表みたいだということを示すにはとてもいいし、演じた釆澤靖起が大変上手だったのでそうしたいのはとてもよくわかるのだが、ただ何しろ2人が同じ舞台に登場する場面があるものであまりにも忙しすぎて、タッチストーンの機知に笑うというよりは釆澤靖起の声色や変身に笑うみたいになっちゃうのが良くないかと思った。

 一番大きな演出のポイントは、実際に正体が明かされる以前から、オーランドーがギャニミードが実はロザリンドだということに気付いているという解釈をとっていることだ。オーランドー(玉置玲央)は男装したロザリンド、つまりギャニミード(太田緑ロランス)と最初からけっこう近しく、ギャニミードと会うのをいかにも楽しみにしている。さらにオーランドーの兄オリヴァーが失神したギャニミードを助け起こそうとする場面ではオリヴァーがうっかり胸に触ってしまい、オリヴァーにもギャニミードが女性であることがバレるという展開もある。この後にオーランドーはギャニミードと会った時、兄とものすごくびっくりするような話題について話したと意味ありげに言っており、これはおそらく、2人ともギャニミードが実はロザリンドだということに気付いてそれについて話しあったことをほのめかすものだ。

 

 オーランドーがわりと早い段階でギャニミードの正体に気付くというのはあんまり見かけない演出だが、皆無というわけではない。私はライヴ上演では見たことないと思うのだが、岩波文庫版『お気に召すまま』の解説には「二人はロザリンドの本体を知っていて、わざと戯れているのだと考えてもいいのだ、という説もある」(阿部知二「解説」、p. 190)と書かれていて、故阿部知二先生はひょっとしたら見たことあったのかもしれない。ケンブリッジ版『お気に召すまま』の注釈にも、1958年にドイツで、1983年にノルウェーでそいう演出があったという先例がひいてあるので(p. 184)、全く新しい演出というわけではないと思うのだが、それでも比較的珍しいと思う。これはけっこう面白い解釈だと思うのだが、ただオーランドーがとても賢く見える一方、自分の正体がばれたことに気付いていないロザリンドがちょっと鈍く見えるところが欠点かなと思う。ヴィジュアルや他の点ではオーソドックスだが、ポイントポイントで珍しい演出を仕込んでまとめるというプロダクションなので、こういうものを見られて大変良かったと思った。