バルセロナ美術館めぐり〜ミロ美術館、ピカソ美術館、ダリ美術館

 このエントリでは二日目から三日目にかけて行った美術館三つの感想を。

 まず、二日目の最後にモンジュイックにあるミロ美術館に行った(ここは撮影禁止だったので写真はない)。そんなに大きくはない美術館だったのだが、ほんとミロって天才と思ったな…一般受けはそうしないかもしれないし、キッチュすぎて大巨匠とはいえないかもしれんが、とにかく自由奔放かつエネルギッシュ、色彩と音楽と熱気が満載。赤と青の使い方のうまさには全く舌を巻く。共感覚者にすごく愛されそうな要素がいっぱいあり、どっちかというと(完全に私の主観だが)見えたものをそものまま描いているのではという気がしたので、シュールレアリスムという言葉はあまり似合わないと思ったな…

 三日目にピカソ美術館とダリ美術館を見たのだが、ピカソ美術館はこんな感じの古いお屋敷に入っている。


 ピカソは若い頃バルセロナに住んでいたことがあり、この美術館はピカソの友人だったジャウメ・サバルテスがピカソ本人とも相談してバルセロナに設立したらしい(ピカソはこの街を気に入っていたようだ)。ご本人お墨付きということで美術館のほうも気合いが入っているのが、ここのコレクションはかなりすごかった。ピカソが14歳くらいの時に描いた『最初の聖餐式』という絵(全くキュビズムとかではないオーソドックスな絵)を所蔵しているのだが、14歳とは思えないほど成熟していて、たぶんこのあとアヴァンギャルドになったのはもう十代にしてオーソドックスな絵画術は極めちゃったからなんだろうなと思った。あとやはり16歳くらいの時に描いた『科学と慈愛』という、病気の女性の脇に医者(科学)と修道女(慈愛)が付き添っているという絵もあったのだが、これも非常に完成されていて驚いた。
 もちろんアヴァンギャルドになってからの絵もあるのだが、面白かったのはベラスケスの『ラス・メニーナス』のパロディともオマージュともつかない連作群。『ラス・メニーナス』連作をこれだけずらっと並べられると、ピカソがいったいどういうところで実験をしたかったのか、またもとのベラスケスの絵にどういう関心を抱いていたのかが非常によくわかり、見ているだけで楽しい。もとの絵をいかにもキュビズムっぽくバラしていろいろな角度や大きさで再構成しているのだが、オリジナルの絵の消失点にあたるドアの人(ドン・ホセ・ニエト・ベラスケス)だけは絶対にきちんと描き込んでいるところが面白い。キュビズム創始者なのにこんなに消失点にこだわってたのかー。

 ピカソ美術館を見たあとダリ美術館にも行ったのだが、ここも面白かった。大作は少なく(大作はフィゲラスのダリ美術館にあるはず)、デッサンとか写真が多いのだが、ダリの奇才ぶりを感じるには十分。このオブジェとかイカれてるよな…


 こちらのぐんにゃり時計のオブジェは本人ではなく別のアーティストさんがオマージュとして作成したものらしい。

 ダリは以前から結構好きなのだが、この人ってウォーホルより前では最もキャンプなアーティストと言えるんじゃないかな。おそらくはシャイな内心をものすごいハイプで隠しているあたりが興味深い。

 …しかしながらバルセロナではガウディ、ミロ、ピカソ、ダリと各種天才の才能を堪能したのだが、こう並べて見るとピカソが非常にオーソドックスで良識ある画家に見えてくるから不思議である。キュビズムが大流行して今ではかなり一般的になったからかもしれないのだが、ガウディ、ミロ、ダリ(三人ともカタルーニャっ子)はちょっと独創的すぎるというかイカれすぎてて影響を受けるにも一苦労しなくちゃいけないくらいヘンだと思う。これに対してピカソは非常に基礎がしっかりしているというか、極めて古典的な知識をもとにアヴァンギャルドなものを組み立てている感じがするので、現代のアーティストが参考にしやすいのではという気がした。こういうロマン主義的な陳腐な喩えはあまり使いたくないのだが、ガウディやミロ、ダリは生まれたままの奇声をほとばしらせるだけで歌になる野鳥のようである(本当はそうではないはずなのだがそう見える)一方、ピカソは意識的な学びを何度も繰り返すことで独特な節回しを身につけた鳥だということをアピールしてるよね。以前からピカソの絵はいろいろな見方を一枚の絵に統合しているせいで細部を見るとなぞめいているが全体を見ると何かやたら迫力があるというところがシェイクスピアの芝居に似ていると思っていたのだが、ピカソシェイクスピアはどんな季節にもそれぞれ違った美しい声で囀ることを身につけた鳥だと思う。それに比べるとガウディやミロ、ダリは夏にだけものすごく素晴らしい声で鳴く鳥である。ピカソは作風がめまぐるしく変わるので絵画の素人にはなかなか「これがピカソだ」という見分けがつきにくいところがあるが、ガウディとかミロ、ダリは何をやってもいくぶんかは同じにおいがして見分けがつきやすいように思うんだけど、そういうところに関係あるのかな…