なかなか良くできた『オデュッセイア』の翻案芝居――ハムステッド座、ドルイドシアターカンパニー『ペネロピ』

 ハムステッド座で、前からチケットを買っていたドルイドカンパニーの『ペネロピ』を見てきた。とても落ち込んでいたのであまり出かけたくなかったが、見たら面白かったので良かった。

 『ペネロピ』はゴールウェイの有名なカンパニー、ドルイドシアターのプロダクションで、エディンバラフリンジで賞をとった作品。タイトルからなんとなく想像つくと思うが、『オデュッセイア』の翻案である。

 舞台はオデュッセウスが帰ってくる前の日のイタカ島、留守をオデュッセウスの妻ペネロピがひとりで守っている。何年もの激しい争いの中、最後まで残った四人の求婚者たちは前の晩に全員オデュッセウス帰還の夢を見たためすっかり怯えている。最後のチャンスとばかりにペネロピの愛を得ようとするが…まあ、結末はみんな知ってるよね。

 しかしながら求婚者は全員アイルランドのおっさん(じいさんとか若者っぽいのもいるが、みんな疲れ果てておっさんくさくなってる)で、セットは現代風。舞台は一階と二階に分かれている。一階は監視カメラがついたボロい部屋で、ここに求婚者たちがたまっている。二階はガラス張りの大きな窓がついたテレビのある部屋。ペネロピがこのテレビ室にやってくるとサイレンが鳴り、求婚者たちがカメラに向かって求愛。ペネロピはテレビを使ってこの求愛の様子を中継で見る。求婚者たちはペネロピを直接見ることもほとんどできないというやるせない状況であるが、それでも求婚者たちはペネロピの愛のため…というよりは今まで無為に過ごした長い時間を無駄にしないために必死に求愛を続ける。しかしながら互いを蹴落とそうとこづきあっていたこいつらが最後に出した結論は「愛に勝たせよう」。そしてペネロピが愛するオデュッセウスが帰ってくる気配がして、おそらく求婚者たちは愛のために生贄として殺されるであろうという予感がしておしまい。

 最初は四人のおっさんが右往左往するだけで、まるで不出来なベケットもどきみたいな感じで(『ゴド待ち』ならぬ『オデュッセウス待ち』)もうどうしようかと思ったが、開始二十分くらいでどんどん面白くなり、最後は全く怒濤の結末。不条理ものが苦手な人も、最後二十分は爆笑場面と考えさせられる場面の連続で楽しめると思う。いやぁしかし、オデュッセウスの旅路を求婚者の立場で書いてみようとかいうのはまあありそうな発想だとは思うのだが(『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』とかに近いよね)、こんなにちゃんと感動できる話になるとは…

 そんなわけで、ちょっとでも古典をやったことがある人、はたまたベケットとか不条理ものが好きな人には大変おすすめだと思う。