Tiffany Potter, ed. Women, Popular Culture, and the Eighteenth Century(『18世紀のポピュラーカルチャーと女性』)〜大衆文化史に興味ある人は必読!

 Tiffany Potter, ed. Women, Popular Culture, and the Eighteenth Century (University of Toronto Press, 2012)を読んだ。18世紀イングランドの大衆文化と女性の関わりをかなりまんべんなく扱った論文集で、ポピュラーカルチャーの歴史に興味ある人は必読である。

 で、この論文集は18世紀における大衆文化と女性を扱うパートと、現代において18世紀の大衆文化がガーリーカルチャーの中でどう受容されているかを扱うパートに分かれているため、必然的にジェーン・オースティンに関する論文が多くなる(というか半分くらいはオースティンを扱ったもの)。あらためてオースティンの影響力の大きさを感じるわけだが、扱われている内容はダーシーマニア(『高慢と偏見』のダーシーを愛する女子たち)から非英語圏も含めたオースティン受容、あるいは『高慢と偏見とゾンビ』まで多岐にわたっている。ちなみにこの論文集、『高慢と偏見とゾンビ』についての論文が巻頭に収められているのだが、図書館で借りてきて何も知らずに漠然と地下鉄の中で読み始めたらあらすじの解説だけで爆笑してしまった。『高慢と偏見とゾンビ』はどうやら18世紀の結婚をめぐる駆け引きとゾンビとの戦いがかなりパラレルなものとして描かれているらしい(シャーロット・ルーカスの愛のない結婚とゾンビ化が同一視されてるようだ)。


 この他現代における18世紀文化の受容として面白かったのは、イギリス人はどうやらサミュエル・ジョンソン博士とその周りの人々にすごく興味があるらしいということである。人気作家であるベリル・ベインブリッジのAccording To Queeneyというジョンソンサークルの人々を扱った歴史小説についての論文が収録されているのだが、どうやらこの頃を扱った歴史フィクションというのは思ったよりもずいぶん出ているらしい。ちなみに日本語訳が出てるライザ・ピカードの『18世紀ロンドンの私生活』の原題はDr. Johnson's Londonなんだよね。「ジョンソンのロンドン」というものが想定できるくらい、イギリス人は18世紀半ばの文化をサミュエル・ジョンソンと結びつけているということである(ちなみに「シェイクスピアのロンドン」という言い方もある。16世紀末〜17世紀初め頃のロンドンのころ)。

 18世紀のポピュラーカルチャーと女性の関わり自体を扱った論文としては、バラッドオペラと女優についての論考などが良かった。バラッドオペラは音楽の知識が必要で演劇研究者には若干鬼門なので、こういう論文がポピュラーカルチャーの論集に入るのは助かる。

 まあそういうわけでこの本はイギリス文化史や18世紀のこと、あるいは女性のファンダムに興味ある人には大変オススメである。