ヴィクトリア&アルバート博物館「ハリウッド衣装展」〜ハリウッド映画の衣装の歴史と技術

 ヴィクトリア&アルバート博物館で「ハリウッド衣装展」を見てきた。人気の展覧会で予約必須。

 とにかく展示は大変充実している。展示されている衣装の量はすごいし、幅はサイレント時代あたりから今年の映画までジャンルもまんべんなく、質も『風と共に去りぬ』や『オズの魔法使い』で使われた衣類とか、かなり歴史的重要性があって個人コレクターやらアメリカの大きな博物館からたぶんすごい保険料かけて借りてきたようなものがかなり揃っている。スミソニアンから『オズの魔法使い』のルビーの靴を借りてきていてこれがハイライトのひとつなのだが、一緒に借りてきたドロシーの衣装のほうは結構褪色しているし地味めだったりするあたりも面白い。しかしさらに面白いのは衣装についての解説が非常にきちんとしていることで、衣装の変遷の歴史とか、デザイナーが技術的課題をどうやって克服しているかとか、役者が衣装とどう付き合っているかとか、そういうことをかなり綿密に調査して上手にわかりやすくまとめている。

 例えば最初の部屋は映画の衣装に映像を用いた解説をつけて展示しているのだが、ここでは主に「デザイナーは見栄えよりもその場所における自然さを重視している」ということを説明するため、いろいろな笑える解説映像を作成している。『ビッグ・リボウスキ』でジェフ・ブリッジズがスーパーに買い物に行く場面で着ているねまきのガウンについては、「このリボウスキがスーパー以外の場所にいたらどうなるか?」という合成写真をスクリーンで次々見せていくのだが、ガウンを着たブリッジズを月着陸とかホワイトハウスオバマの執務室とかに置いているのは結構笑える…んだけど、じっくり見ていると「ブリッジズ自身にはガウンは似合ってるんだけどやっぱりどこにいるかっていう場所が一番大事なんだな」っていうことがなんとなくわかってくる。またまたジェイソン・ボーンシリーズについても、逃げるマット・デイモンをスクリーンにうつし、もとの黒っぽい地味な衣装をスコットランドのキルトとか柄つきTシャツとかに次々合成で変えて「スパイはやっぱり地味なものを来てないと変だよなあ」というのを映像で説明している。こういう笑える解説映像はなかなかいい。

 次の部屋では衣装を展示する一方、映像とパネルでモノクロからカラーへの変遷が衣装をどういうふうに変えたかとか、ヘイズコードなどの検閲がどういうふうに衣装に影響を及ぼしたかとかを説明している。ここではヘイズコード以前のギャング映画やセクシー系映画の短いクリップとそこに出てくる衣装の実物を見ることができ、これまた興味深い。ヘイズコード以前の女性映画の衣装ははっきり言ってかなりセクシーである。あと、モノクロ時代はシルエットと光が一番大事だっていう説明も面白かったな…メイ・ウエストは映画に出る時、「この映画では自分しか白い衣装を着ない」というのを契約書に含ませたそうである(モノクロだと白一色の衣装が一番目立つから)。

 最後の部屋はいろんなアイコニックな衣装に役者の顔写真とデザイナーに関する解説パネルをつけたものがずらっと並んでいるのだが、スパイダーマンのリニューアルの時に一から新しいキャラを作る以上に苦労した話とか、『オースティン・パワーズ』の衣装は60年代の典型的英国ダンディとしてジョージ・ハリスンを参考にしたとか、いろいろ面白い話がたくさん書いてある。たしかにビートルズの中ではジョージが一番ダンディだしサイケだし、オースティン・パワーズに近く…ない。

 まあそんなわけで非常に面白い展覧会だった。映画関係者は必見だと思う。